内容説明
疱瘡を病み、姿崩れても、なお凛として正しさを失わぬ女、岩。娘・岩を不憫に思うと共に、お家断絶を憂う父・民谷又左衛門。そして、その民谷家へ婿入りすることになった、ついぞ笑ったことなぞない生真面目な浪人・伊右衛門―。渦巻く数々の陰惨な事件の果てに明らかになる、全てを飲み込むほどの情念とは―!?愛と憎、美と醜、正気と狂気、此岸と彼岸の間に滲む江戸の闇を切り取り、お岩と伊右衛門の物語を、怪しく美しく蘇らせる。四世鶴屋南北『東海道四谷怪談』に並ぶ、著者渾身の傑作怪談。
著者等紹介
京極夏彦[キョウゴクナツヒコ]
小説家、意匠家。1963年北海道生まれ。1994年、かねてよりアイデアを温めていた妖怪小説『姑獲鳥の夏』で鮮烈な小説家デビュー。『魍魎の匣』で第四十九回日本推理作家協会賞受賞。『嗤う伊右衛門』にて第二十五回泉鏡花文学賞受賞
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
感想・レビュー
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ミカママ
324
これはまた・・・ひりつくような恋愛小説。四谷怪談は、昔歌舞伎で観たことがあるだけで。こんな風に、想いたいし、想われてみたい。オリジナルをここまで小説化した京極さんはひょっとしたら天才かも。初読みでした。2016/10/16
ヴェルナーの日記
179
四谷怪談といえば、鶴屋南北の『東海道四谷怪談』が有名で、以後、登場人物の性格付けは決まっていた。民谷伊右衛門は、悪逆非道の悪人。お岩に毒を盛り、赤子もろとも殺す。その怨みをはらすため、お岩が「うらめしや~、伊右衛門殿」となるのだが、本作では真逆の伊右衛門。孤高の正義の人で、シャークスピアの『ハムレット』のようだ。悲劇『リア王』『マクベス』『ロミオとジュリエット』を髣髴させる。純文学の香りがする作品。されどミステリーの要素も外さない。お岩は、いつ死んだのだろうか?気をつけて読まないと又市に御行されてしまう。2014/12/21
nobby
150
何とも切なく哀しい純愛物語。いったい何が悪かったのか…どうすればよかったのか…絶対悪が討たれた後に訪れる至福でさえ「笑い」でなくて「嗤い」の表現に象徴されている。四谷怪談モチーフだが、幽霊や祟りに主題置かれないのは斬新。疱瘡から醜い顔貌を負ってさえ気丈でいて真っ当に世間と対峙する岩、かたや寡黙でいて実直にその醜聞へも向き合う伊右衛門。周囲の評など差し置いて夫婦となる二人だが、そのお互いの不器用さ故にぶつかり合う様が歯痒いばかり…時代や身分などが生む理があったばかりの悲愴、“ただの岩”が幸せとは悲し過ぎる。2018/02/15
🐾Yoko Omoto🐾
144
時代がかった文体と言い回しに惹き込まれ、自分が知る「四谷怪談」とはまるで違う物語を堪能した。「蚊帳の中」という小道具が伊右衛門の人となりを非常に象徴的に表し、終盤での彼の心情を際立たせる見事さ。数々の意味深な台詞に潜められた真意、全ての元凶が紐解かれた時に浮かび上がる動機などが、この時代背景特有の人間模様に巧く絡められた上質なミステリ。贅沢は好まず身の程を知り、ささやかな幸せのみを望むべくも周囲の奸計にも似た思惑によりそれすら叶わぬ悲運。「嗤い」が「笑い」ではないところに皮肉な運命に弄ばれた重さを感じる。2014/09/08
優希
109
京極版東海道四谷怪談とでも言いましょうか。疱瘡で姿が崩れても正しさを失わない岩のもとに婿養子として婿入りした嗤ったことのない男・伊右衛門。心では想い合いながらも現実ではうまくいかないばかりか、周りの人たちの思惑で引き離されていくのが切なさを誘います。想いが上手く通じ合わないからこその悲恋ですが、その想いは純愛そのものです。暗くて静かな物語に漂う幻想の世界に惹き込まれました。鶴屋南北の物語をベースに美しい恋愛小説へと昇華させている作品だと思います。2015/07/21
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