内容説明
明治三年。脱疽のため右足に続き左足を切断した名女形、沢村田之助の復帰舞台に江戸は沸いた。ところが、その公演中に主治医が惨殺され、さらには、狂画師・河鍋狂斎が描いた一枚の幽霊画が新たな殺人を引き起こす。戯作者河竹新七の弟子・峯は捜査に乗りだすが、事件の裏には歌舞伎界の根底をゆるがす呪われた秘密が隠されていた…。第六回鮎川哲也賞を受賞したデビュー表題作に、その原型となった短編「狂斎幽霊画考」を併せて収録。気鋭の原点とも言うべき傑作時代ミステリ。
著者等紹介
北森鴻[キタモリコウ]
1961年山口県生まれ。95年『狂乱廿四孝』で第六回鮎川哲也賞を受賞し本格的に作家活動に入る。その後『狐罠』などの力作を発表し、99年『花の下にて春死なむ』で第五二回日本推理作家協会賞を受賞
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感想・レビュー
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さつき
77
再読ですが、だいぶ前に読んで筋を大半忘れていたので新鮮な気持ちで楽しめました。明治3年、御一新で荒廃し治安の悪かった江戸の芝居小屋で起きた殺人事件。病気で両足を切断しても、舞台に立ち続ける女形、澤村田之助の執念。その美に魅入られた人々の動揺がつぶさに描かれます。解説にある「当時の庶民にとっては明治維新より田之助の病気の方がよほどの一大事であった」との言葉に驚きつつ、いつの時代も人間は変わらないのだな…と思いました。久しく歌舞伎を観ていないですが、また行きたくなりました。2019/05/11
天の川
25
北森鴻さんのデビュー作。河鍋暁斎の幽霊画を小道具に、明治初期の歌舞伎の世界で次々に起きる殺人事件。脱疽によって両手両足を次々に失ってもなお舞台に立ち続けた稀代の女形である澤村田之助を巡る話は、殺人事件そのものの顛末はちょっと…と思わなくもなかったけれど、田之助の凄絶さ、歌舞伎の世界、時代背景がとても興味深かった。2019/01/11
エドワード
22
明治三年の浅草猿若町。たっぷり江戸が残る芝居小屋、守田座。脱疽のため両足を失った名女形・澤村田之助の興業中に起きた連続殺人事件。座付き作者の河竹新七とお峯の師弟が乗り出す下手人探し。そこへ奇想の絵師・河鍋狂斎の幽霊画がからみ、世にも不思議な事件へと発展する。現場が芝居小屋ならば、からくり、お白粉、判じもの、趣向も豪華絢爛、北森鴻さんの歌舞伎愛と江戸愛に満ちた謎解き。スピード感あふれる展開、合理的思考で事件に迫るお峯、これはまさしく探偵小説。「こんなにも人が死ぬことはなかったのに。」いずこで聞いた台詞かな。2016/02/13
みっちゃん
20
江戸と明治は本当に地続きの時代だったのだと改めて思う。登場人物が多くて混乱したが、下手人は意外な人物で面白かった。2015/05/29
藤枝梅安
18
幕末から明治初期の歌舞伎を題材にした話。三代目澤村田之助を軸に、九代目団十郎、五代目菊五郎などが出てきて興味深い。役者ではなく狂言作家・河竹新七(後の黙阿弥)がこの物語の中心人物である。一枚の幽霊画をめぐって謎が謎を呼ぶ展開で、一気に読んだ。三世田之助にまつわる話は様々あるが、この小説は田之助や河竹新七を敢えて悪役に据え、芝居小屋の裏と奈落に渦巻く思惑を鮮やかに描いている。2009/08/15