内容説明
男は車のミラーから彼女を凝視していた。映っていたのは、十七歳の少女フェリシア。連絡先も告げずに去ってしまった恋人を捜すためにアイルランドからイギリスにやってきた。何の手がかりもなく。車の男ヒルディッチは、町工場の食堂の責任者。だが彼には知られざる性癖があった。天才的な嗅覚で家出娘たちを捜し出し、巧妙に助けの手をのべ、感謝され、そして―殺す。男は偶然の出会いを演出し、静かに、だが確実に、彼女を追いつめていく―。アイルランドの実力派による同名映画の原作。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
nuit@積読消化中
76
なぜこんな面白い作家さんの本を20年も積読にしていたんだろう。そして、当時この映画を観るつもりが見逃したままで、今は近所のレンタル屋にも配信にもない(泣)。このウィリアム・トレバーという作家がすごいと思ったのは、狂気に満ちた複雑な陰を持つ人間の内的表現のうまさ!読んでいくうちにあれよと自分も感情移入し(あ、ヒルディッチというおっさんの方にね)訳がわからなく狂っていくんです(苦笑)!でもこれはまごうことなき美しい文学なんです。ヒルディッチを俳優ボブ・ホスキンスが怪演とのこの映画も近いうちに観たいと思います。2020/03/10
キムチ
53
「リッツホテル」も、この作品もトレヴァーの日本へ紹介する路線が些か迷走?的疑問。裏表紙にある照会文「猟奇的男性」「変態が牙をむく」等それがいつ来るか、ハラハラで読了。大山鳴動して何も出ず、ぽっと出の姐ちゃんがヒルディッチ氏に抱いた印象が膨満(もっとも、身体も肥満体だけど)【有能なるお母さま】が施した育て方の為か「食べる事大好き、小物大好き」の子供部屋おじさん化した彼。虞犯的人物とまで行かず町工場の食堂責任者として普通に信頼を持たれている。社会的成長危ういフェリシアより彼の方が実は隠れた主役ではないかと思う2025/01/31
りつこ
36
サスペンスタッチなストーリーにこれがトレヴァー作品なの?と驚きながらもう読むのやめようかなぁと腰が引けながら読んだのだけれど、最後まで読むと驚きの着地で、ああやっぱりトレヴァーなのだなぁと思う。早くに母に死なれ100歳になる祖母の介護や家事を一手に引き受けている少女フェリシア。その彼女が恋をして恋人に会うために家出をする。そこで彼女が出会ったのが表向きは気のいい食堂長だが実は恐ろしい闇を抱えた中年男。彼女がたどり着く境地に驚きつつも彼女の旅はまだ始まったばかりなのだとも思う。2016/12/09
シュシュ
24
やっぱりトレバーだなと思う。人の弱さ、心の闇を描き、社会的に弱い立場の人に対する愛情を感じる。フェリシアのまっすぐな感じは、『恋と夏』のエリーを思わせる。2017/07/18
ハルバル
11
あらすじを読むとまるでフェリシアに近づく親切な中年男が家出娘を殺す為に近付くサイコキラーのようだが、中盤まではたしかにそうした要素のある定石のサスペンスに見える。しかしそこはやはりトレヴァーで、後半フェリシアに逃げられてからは妄想に囚われた男の今まで封印していた記憶が蘇り、次第に母親との歪んだ関係にまつわる性的なトラウマ、孤独感を繊細な筆致で浮き彫りにしていく。彼がつける結末とフェリシアのこれからの生き方には「それでいいのか?でも本人が望むなら仕方ないのか。でもなぁ…」というやるせなさが滲む。人生は旅。2018/09/20