感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
hit4papa
48
原野をこよなく愛する主人公は、散策の途中、髪の毛をかられた女性の死体を見つけます。事件は、連続殺人に発展し、主人公が容疑者として警察からマークされることになって…。妻が、別の男性の子を宿したことをきっかけに、予想外の事態が発生してしまうのです。原野への偏愛、性的な問題、男と駆け落ちした母親のトラウマ、父との関係、祖母との暗い過去。主人公の複雑な心理が緻密に描かれていて面白いですね。妻が別の男性にはしらざるをえない状況も納得性があるし。派手さはないけれど、風物を含めて英国ミステリならではの空気感です。2010/11/17
うえぴー
23
イギリスの美しい荒野を舞台にした悲劇。荒野に魅せられた主人公スティーヴンは、自分の庭ともいえる荒野の一角で、絞殺され、頭髪を切り取られた若い女性の死体を発見する。自分の聖域が犯されたと思ったスティーヴンは、独自に犯人像を予想しつつ、荒野への偏愛は徐々に強まり、夫婦関係は破綻に向かう。大自然の美しさと、人間関係の卑小さを対比させながら、どうあっても悲劇に終わるしかないと思わせる筆致。途中からサスペンスに転調し、サプライズを連打する終盤。読者を突き放し、余白を残すラスト。悪くないと思います。2017/10/27
くさてる
18
荒涼たる原野の描写のなかで浮かび上がる連続殺人に一癖ある登場人物たち、その過去と運命がどんどん進んで袋小路に進んでいくような不穏な展開に魅せられて一気に読みました。レンデルらしい後味の悪さに、好きになれない人物ばかりが登場する話だけど、やっぱり面白い。ラスト近くの意外な展開には声が出ました。面白かったです。2020/10/03
bapaksejahtera
14
1985年作品。イングランド西部、英国小説説で頻繁に舞台となるヒースの荒野。その岩山の中に廃坑が散在する、「ヴァングムーア」を我が身の一部として愛する青年が主人公。彼はそこで髪の毛を切られた女性の死体を発見する。警察は彼に疑いの目を向ける。荒野に夫の心を捕られた彼の妻は、別の男に走る。小説には人物紹介欄がなく、その上著者は謎解き同様に、登場する人物のあれこれを小出しにして読者に委ねる。小説終盤、主人公を追う小説の叙述は、彼の突然迷走する精神の動きに連れ、ストレートな叙述から離れ分解する。老耄には辛い小説。2025/04/06
madhatter
6
再読。舞台設定「だけ」は好みなのだが(確かに小泉氏が好きそう)…雰囲気だけで突っ走られてもね。何と言うか、全体的に内容の取捨選択が行われていない、まとまりのない作品に思える。原因は様々に考えられるが、主人公のスティーヴンに色々詰め込みすぎたのがまずあるのではないか。コンプレックスのスーパーマーケットかお前さんは。その上、一々それらに無理にオチをつけようとしたために、内容的にも無駄が多くなっている。また、訳文も英語の関係詞をそのまま訳したような、座りの悪い文章で、内容に没頭し辛かった。2011/03/07