感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
265
典型的なクライム・ノヴェルだが、タイトルが語っているように、犯罪そのものにではなく、その後の逃避行に焦点をあてられている点に特徴がある。また、書かれる時から映画化を企図していたのではないかと思われるほどに、小説作法は映画的だ。スリルとサスペンスが随所に用意されているし、場面もビーコン・シティ(架空の街か?)から、カンザス・シティへ、そしてサン・ディエゴから、最後はメキシコのどこかにあるエル・レイの王国へ。篇中でもっとも、スリリングな場面はカンザス・シティの停車場のシーンだろう。結末はなんともシニカルだ。2016/01/24
ケイ
150
随分と長い間、刑務所暮らしをしていた男が銀行強盗を計画したところで、逃げ切れるのだろうか。しかも女連れで。とにかく彼らは逃げる。追っても執拗に追うから、読んでいて息苦しい。逃げる上での同志であるのに芽生える互いへの疑心暗鬼は、犯罪者ゆえのもの。平穏を手放したのは、自らなのだから。警戒を怠れない暮らしでは愛は死ぬのか。それでも愛は全うされるのか。いや、そもそも愛とはなんなのか。2人を見ていてそう思った。2017/09/25
まふ
105
ハードボイルド強盗アクションストーリー。冷静沈着な凶悪強盗犯ドクが保釈されて、かねての計画通りに直ちに銀行を襲い、妻のキャロルと夫婦愛を確認しつつ非情に殺人を繰り返しつつ、メキシコ国境を越えてエル・レイの「王国」に逃げ延びる。が、そこはさらに恐ろしい不思議な世界であり…と、余韻たっぷりの終わりであった。妻との微妙なあやしい愛情が涸れたタッチで描かれたり、逃亡間際の隠れ家での洞窟や垂れてくる牛糞尿の堆肥汁の臭気など逃亡の辛さを読者に見せつけたり、近来稀なるよくできた逃亡ストーリーであった。G1000。2023/09/09
NAO
83
刑務所を出る特赦を得るための資金調達目的で銀行強盗を働くドク。ドクの特赦を得るためにキャロルが有力者ベニヨンと関係を持ったのかどうかということについて夫婦間の葛藤も描かれてはいるが、あくまでも逃避行を成功させるためにはなりふりかまわない、というバイオレンスに満ちた二人の行動が、軽すぎるほどテンポ良く描かれていく。その二人が、ついに逃避行を成功させ、行き着いた場所。それが、なかなかに奇妙で微妙な場所なのだ。たくさんの人間を殺してきた二人には、こんなところがふさわしいのだ、ということなのだろうか。2020/11/27
セウテス
60
主人公ドクは最後の大仕事と決めた銀行強盗で、奪った大金を持ち妻のキャロルとメキシコを目指す逃亡劇。物語は銀行強盗の場面から始まり、仲間を裏切り、黒幕を殺し、果たして逃げ切れるのかというサスペンスだ。2度に渡る映画の大ヒットにて知られる様になったのだが、残念ながら映画の迫力は感じない。しかし小説ならではの、言葉による心理描写には作者ならではの目線を感じ取れる。少々斜に構えたシニカルな表現は、映画のハッピーエンドとは違う雰囲気を漂わせる。彼らの未来に、暗い影が差し掛かっている様に思えるのは作者の作風のせいか。2017/08/12