内容説明
弁護士藤岡信夫は大阪地方裁判所で離婚訴訟事件をあつかっていた。離婚を求めているのは妻の田保橋滋代三十二歳、夫の大阪府警本部捜査一課警部補・田保橋軍紀の酒乱による暴力に耐えかねての提訴である。藤岡信夫は、傍聴席の軍紀の、心臓を針で刺されるような鋭い痛みをともなう視線に見つめられ続け、薄気味悪くなっていた。藤岡には、人に明かせない過去があった。それを嗅ぎつけられたのではないか。“針の眼”に藤岡は怯えた。そして、そのとおり田保橋の尋問が行われるはずの法廷で藤岡は逮捕状を突き付けられたのだった。