内容説明
今ふりかえれば、昭和19年から十数年余の、農家の嫁としての暮らしはなんと貴重な歳月であったことか。―あの日々、姑をはじめ村の女たちは、きつい農作業に励み、しきたりや行事を守り、気の遠くなるような労働を、寡黙に、確実にやり遂げていた。町育ちの著者の、村の暮らしへのとまどいは、やがて静かな感動となり、さらに歓びへと変わっていく。時と共に失われつつある日本人の「生」にむけるひたむきさを、四季の香りと共に瑞々しく映し出した、胸にせまる名エッセイ。
目次
ひじいさん
やぎの乳
床屋のおばさん
おふんちゃん
産婆さん
代参
ゆい
もの売り
売りもの
替え干し
演芸会
鶏
お蚕さま
倉
屋根の葺き替え
湯殿
かまど
四度の食事
夜なべ
村祭
わら灰
西風
しもやけ ひび あかぎれ
餅搗き
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
pantyclub
1
古い本らしく当時の生活が良く分かる。昔の農村の暮らしは大変だったこと。一日中体を動かして働くことが生きること。地方固有の式たりが面白い。地域に入り込む難しさを感じる。昔から女性の大変さが変わって無い気がする。本書にある産婆さんは完全に消えた気がする。嫁入りも一大イベントで大変そうだけど伝統をつなぐことは素敵なことだと思う。2022/10/25
いろは
1
【学校図書館】現代より嫁の立場がずっとずっと低かった時代の回顧録。農家の暮らしがつづられている。読後は季節の行事や、他人との関わり方を、もっと丁寧にしていきたいと思った。2017/10/30
NezMozz
1
正月の餅は28日に。菖蒲湯。夏至のしきたり。正月の作法。現代において、これら諸々の日本の季節の行事を最も正しく守り伝えているのは全国のスーパーの店頭であるというのが持論なのだけれど、それらのさらにルーツの断片を垣間見る。日本の暮らしは農村の暮らしであり、本当に全くもって興味深いことばかり。さらに宮尾登美子自身の目線がイイ。農村の暮らしにあれこれと思うことができるのは、彼女がそこで異邦人であり、その自覚があるからだ。宮尾登美子のこの、ある種の高慢さを内包する「お嬢様」感から描き出されるものが大好きだ。2012/06/12
竹内哲
0
農家の嫁時代の記憶を綴ったエッセー集。作者自ら黒歴史とあとがきに書くくらい鬱屈した時代だったろうに、その筆致は懐旧の念と愛情にあふれていて、つらいはずの農家の生活が瑞々しく読んでいて楽しげに思えてくる。 筆者は農家の嫁としてはまあできが悪い(養蚕してるのに蚕にさわれないとか)。そんな嫁に厳しくも優しく接する姑への尊敬と暖かい視線が作者の人柄を偲ばせる。 本書を紹介してくれた聡明な友は「女の生き方のエッセーだけどたぶんわかる」と言ってくれたが、母の「暮しの手帖」を隅々まで読むような子だったのを見ぬかれたか。2015/10/27
けいちか
0
宮尾登美子が結婚し、離婚するまで住んでいた高知の夫の実家の農村の暮らしを思い出して書いたエッセー。戦時中から昭和30年代半ばまでの興味深い生活習慣などが書かれている。2012/01/10
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