内容説明
戸倉恭は、ガール・フレンドを待っていた。午後三時に桜の大木の下で会う約束であった。降り続いている柔らかな春の雨は墨絵の世界を現出し、薄桃色の花弁舞うその大木の下には僅かな闇が広がっていた。既に二時間が過ぎた。恭が思っている程、真珠美に気がないのはわかっている。それにしても…。その時、恭は笑い声を耳にした。男か女かもわからない小さな声。突然、高らかな哄笑の渦が恭を取り囲む。身の毛がそそけ立つ。何かが存在する気配…。笑い声は確実に増え続けている。桜の大木の薄闇の中にそいつはいた。そして、近付いてきた。まるで、滑るように…。日常と非日常の狭間に存在する恐怖を描くモダン・ホラー小説。
目次
桜闇
血の中の闇
闇猫と月
泣き叫ぶ闇