内容説明
若き日、嫂と犯した密通の古傷が、名を成した今も、自分を苦しめる。驕慢な心はついに妻を験そうとするが…。表題作「密通」のほか、人生に絶望し、死のうと決めた夫婦と娘が出会い、希望を取り戻す「心中未遂」、婚礼を前に、揺れる女の想いを描いた「夕映え」、夫のためと騙され、他の男に身を任せたことが破滅につながる「菊散る」など、江戸人情を細やかに綴る全八編を収録。余韻溢れる珠玉短編集。文字が大きく読みやすい新装版。
著者等紹介
平岩弓枝[ヒライワユミエ]
1932年、東京生まれ。日本女子大国文科卒。小説家を志し、戸川幸夫、長谷川伸に師事。59年、「鏨師」で第41回直木賞受賞。91年『花影の花』で第25回吉川英治文学賞を受賞し、98年、第46回菊池寛賞を受賞。時代小説から現代小説まで幅広く手がけ、テレビドラマや芝居の脚本などでも活躍。2008年、『西遊記』で第49回毎日芸術賞受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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優希
45
江戸人情を鮮やかに描いた短編集。女性たちの人を恋うるひたむきさが胸を打ちます。それぞれの物語が短編とは思えないドラマがありました。2021/01/21
パルフェ
5
ひたむきに生きる女性達の、人を恋うる切なさと健気さが胸に迫る。 ひとつひとつが短編と思えないほど深くドラマチック。 深層で愛を渇望している主人公に共鳴し、やりきれなさに悶え、心が相通じる嬉しさに涙し、 人が恋しくなった。2020/01/22
山内正
3
裏から帰り障子を開け膝の上の弟子の着物が見えた 怪訝な顔のおこうが目をかしげた 昨年からおこうに国学の講義を受けさせる 何気ないおこうの仕草に吃驚する 夫が俳諧師として名を知られ国学にもと願うが 口の利き方が悪いと断られる 町方の縁で歌の話に講じる おこうの表情に要人を落ち着かせなくさせる 過ちを犯すのではあるまいか 夫の言いなりになっている女に見えるが ご亭主が国元で昔兄嫁と密通した事があるご存知かと 夫は私を試そうとしているのか 要人に擦り寄り話をとした時 スッと立上り縁から外に 父がおこうの駆落ちを2021/05/20
Hironobu
3
平岩弓枝さんの短編集。人の弱さ、強さを作品を通して上手く表現されていて、とても読みやすい。何とも悲しい最後から、よかったと思えるものまで様々。2016/01/26
青虫
3
平岩弓枝さん初読み!短編集ですが、どれも男女間の色とか恋とかを緻密に描きつつ、ただの恋愛ものではない話ばかり。男が女に感じること思うこと(またその逆も)がとても丁寧かつ的確に著されていて、巧い作家さんなんだなと感心。しかしそれよりも母娘や姉妹など女同士の感情のやりとりが怖いほどリアルでした。他の作品も漁ってみよう。2014/07/21