出版社内容情報
刃物を凶器とした、猟奇的な夫婦殺害事件が東京、豊島区で発生した……。警察は捜査を縮小、検察側もこの事件に見切りを付けようとしたその時、鑑定士の助手である小川香深がその鑑定結果に異を立てた―。「刑法第三十九条」の是非を世に問う、衝撃の問題作。
内容説明
東京・豊島区で猟奇的な夫婦殺害事件が発生する。現場には夫と腹部を裂かれた妊娠中の妻が息絶えていた。警察は僅かな手掛りから劇団員の柴田真樹を犯人と断定し、逮捕する。初公判当日、入廷した柴田が突然大声を発する。国選弁護人はこの行為から柴田の司法精神鑑定を請求。鑑定書には被告人は多重人格、つまり刑事責任能力はなしと記されていた。そして捜査が打ち切られようとした時、精神鑑定人・小川香深が被告人の鑑定結果に異を立てる―。99年、「刑法第三十九条」の是非を問い、日本中を震撼させた衝撃の問題作、遂に文庫化。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
黒瀬
123
若夫婦を殺害した被告・柴田は公判当日に奇声を発し、多重人格の疑いを持たれたため精神鑑定へ。解離性同一性障害は滅多なことでは心神喪失だと鑑定されないが、この事件にはそれ以前の問題があり、そもそも39条が無ければ起き得なかった。刑法39条があるからこそ触法精神障害者への差別偏見が深まっている現状でもまだこの法は必要か。この作品は20世紀に発表されたが今なおこの国の正義は歪み続けている。被害者はやられ損。やったもん勝ち。正直者が馬鹿を見る世界で誰が真っ当に生きようと思うのか。柴田の苦しみは理解されたのだろうか。2021/03/02
すたこ
36
★★★★★初読み作家さん。大好物の法廷もの。展開も早く無駄がなく、スッキリ読める。そして、重くてやり切れないけれど、タイトル通りの刑法39条を改めて考えさせられる。精神鑑定のやり取りも興味深く、法廷の緊迫感も伝わってきて、読み応えあり。突っ込みどころはあるものの、真相も予想外で面白かった!2018/07/30
choco
29
まいどな読友の感想を読み、興味が湧いた一冊。刑法39条の在り方、精神鑑定とは…となかなか倫理的にも難しい問題だが 人権とは?と考えれば深みにハマり答えがでない。2014/11/25
カザリ
26
原作も映画もどっちも好きで、再読。犯罪を軸にして追うもの追われるものという対立のなかで、立場はある意味敵対しているのに、そこに共通の敵、ここでは刑法39条が置かれている。精神障害者の罪は無罪というこの刑法条項では鑑定士がある意味で裁判官といって等しい。この法律に対して被告と鑑定士が共犯になってその是非を問う この物語は20年前からずっと心にひっかかっていて、その理由は私がサカキバラ少年と同じ年齢だからかなと思うのでありました。アニメサイコパスのスピンオフ小説もにも39条が登場するので興味のある方はぜひ2019/01/30
ろけっと
19
あまりにも凄惨な殺人事件であった。無造作に残された証拠から衝動的で杜撰な犯行であることが解る。 最初の面会で国選弁護人は彼の恐るべき別人格を身をもって感じてしまう。解離性同一性障害...いわゆる多重人格障害と鑑定された犯人は完璧過ぎる状態を示している。 鑑定の助手を勤めた小川香深はその完璧さと澄んだ瞳に違和感を感じて再鑑定を申し出るが... 刑法39条の是非。答えの出せない質問をぶつけられたような衝撃がここにあった。2010/08/16