内容説明
「わだしは小説を書くことが、あんなにおっかないことだとは思ってもみなかった。あの多喜二が小説書いて殺されるなんて…」明治初頭、十七歳で結婚。小樽湾の岸壁に立つ小さなパン屋を営み、病弱の夫を支え、六人の子を育てた母セキ。貧しくとも明るかった小林家に暗い影がさしたのは、次男多喜二の反戦小説『蟹工船』が大きな評判になってからだ。大らかな心で、多喜二の「理想」を見守り、人を信じ、愛し、懸命に生き抜いたセキの、波乱に富んだ一生を描き切った、感動の長編小説。三浦文学の集大成。
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
三代目 びあだいまおう
305
『蟹工船』の著者小林多喜二の母セキが晩年、多喜二の思い出を語るスタイル。時代背景は戦前昭和初期、日本全体が軍国主義で手段を選ばぬ人権抑圧と徹底した思想抑圧によって国民を戦争に駆り立てたあの時代。多喜二は戦前の非道さの犠牲者だった。自由と自立、人としての正しき姿を貫いた多喜二を襲った権力側の特高警察。凄惨な拷問の末に虐殺された。国家に、時代に惨殺されたのだ。東北秋田出身のセキはおおらかで慈しみ深く家族や子供たちを愛し抜いた。セキに聖母マリアが、多喜二にキリストが重なる!著者ならではの【慈愛】に溢れる‼️🙇2020/08/05
mariya926
146
久々に読みたくなったので再読です。多喜二の本は読んだ事がなかった気がします。母としての、多喜二の虐殺の悲しみが伝わってきました。そして多喜二の死とキリストの死を重ね合わせた部分がとても分かりやすかったです。母がキリスト教を信じたのはすっかり忘れていました。三浦綾子さんの実際に存在していた方々を書かれている自伝は、本当に細かく取材されていて、また読みやすくて大好きです。2022/07/26
新地学@児童書病発動中
119
小林多喜二の母セキの言葉で語られる物語。訥々した言葉に重みを感じる。1人の母親のことが描かれているけど、戦前から戦後にかけての日本人の母親の典型がおそらくセキなのだろう。物語の中で描かれている多喜二の家族も魅力的だ。貧しくても一生懸命に働き、笑い声が絶えなかったあたたかな家族。そんな家族は日本中にたくさんあり、戦争により押し潰されてしまった。一応キリスト教を信仰している私は、多喜二の死とイエスの死が重なり合うラストに一番胸が震えた。2014/01/02
はたっぴ
111
お客様よりお勧めの映画『母』を鑑賞したので小説も読了。映画は多喜二の母役である寺島しのぶの熱演で涙が止まらなかった。この親にしてこの子あり。愛情に満ち溢れた親子にこんな悲劇が起ころうとは。上映前に85歳になる監督・山田火砂子氏が「現在、物議を醸している〝共謀罪〟法案は多喜二が特高警察に虐殺された時代を彷彿とさせる。母である私達は可愛い子供達を二度と戦争に向かわせてはならない。監督としてではなく母親として反対です。」と声を震わせて語る姿が、映画のワンシーンを観ているようで最も心に響いた。現代に通じる作品だ。2017/05/27
ゆいまある
95
小林多喜二の母の一人語り形式を取った小説。酷い目にあっている貧乏人を少しでも減らそうと小説を書いただけなのに、特高に拷問を受け若くして殺された多喜二。親なんて馬鹿なものだからね、そりゃ泣き暮らしたよ。自分の息子より賢くて優しい子なんていないんだよ。千枚通しで刺された多喜二と磔になったキリストが重なり、死んだ我が子を描き抱くピエタとなる。文章が綺麗で物語もわかり易すぎて、うっかりキリスト教徒になりそうで危ない。多喜二より三浦綾子感が残る。言論の自由を守りたい全ての人におすすめ。KindleUnlimited2024/05/26
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