内容説明
東京を騒がせる怪事件の影で、知略によって警視庁を出し抜いてきた元江戸南町奉行の一派。業を煮やした大警視・川路はとうとう直接対決に踏み切る。同じ頃各地では、反政府派の叛乱により不穏な空気が漂っていた。そんな中ついに西郷蜂起す、との報が入る。その裏に隠されていた大からくりとは?そして近代化を巡る争いの帰趨とは…。華やかな明治に潜む闇の中を流浪するものたち。その哀切を描く、山風明治群像劇の一大傑作。
著者等紹介
山田風太郎[ヤマダフウタロウ]
1922年兵庫県生まれ。東京医科大卒。47年「達磨峠の事件」で作家デビュー。49年「眼中の悪魔」「虚像淫楽」で探偵作家クラブ賞を受賞。その後、58年『甲賀忍法帖』を発表し忍法ブームに火を付けた。2001年没(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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Sam
68
「明治断頭台」もそうだったが山田風太郎の明治小説は本当に面白い。本作で描かれるのは川路利良大警視と西郷隆盛という薩摩の傑物同士が西郷の下野からやがて「共喰い」するに至るまでの3年間。時代の変わり目にはドラマがつきものだが特に日本の歴史上稀に見る激変期である明治初期という時代設定がキモであろう。ときに奇々怪々、ときに人情味溢れる18の挿話はどれも見事だが、終章におけるご隠居と川路大警視の対決は明治という時代においていかに国を作り上げるべきかという国家観のぶつかり合いであり、本書の白眉に相応しい。2022/03/29
シ也
46
ラスト、ついに始まる西南戦争。これを読むためにずっと読んできたのだと思った。清水のジロチョーなど、実在の人物が登場するのは安定ではあるが、現実と虚構が入り交じり、その代表とも言うべきご隠居と川路が戦うのは、ただのオマージュだけではないだろう。もう少し警察小説としての面も楽しみたかったので、そこだけが惜しい。しかし、侍とはなんとも“不器用”な生き物である。彼らは“侍”としての生き方しか知らないのだ。だからこそ、最後の出兵のシーンには切なくなる2016/04/18
くまクマ
36
前半、登場人物の多くが妖艶過ぎて面食らい赤面。と思えば、後半は警視庁と元南町奉行様との駆け引きに息を飲む。最後は兵四郎の想いに切なくなり。2018/06/12
よっちゃん
24
連作短編かと思えたいくつもの事件はやがて完成する大長編小説の布石に過ぎなかった。、ストーリーは西郷蜂起(明治10年、1877)へと向かう。山田風太郎の大胆な着想。最後の内戦こそ、権力を盤石にしようとする大久保・川路が仕掛けた、いわば「謀略・西南戦争」であった。近代化へと回る明治という歯車。その回転軸を順逆するふたり。白眉は差しで向き合った川路利良と駒井相模守の命をかけた論争だ。これは明治だけのお話ではないな………と、ギリギリとひしめく摩擦熱を前に読者は立往生せざるをえない。風太郎、ただものではない。 2016/01/31
タツ フカガワ
19
これは山風先生のなかでも屈指の名作ですね。上巻冒頭、本所源森堀で征韓論に敗れ鹿児島へ帰る西郷を粛然と見送った川路大警視の心中が明らかになる終章「泣く子も黙る抜刀隊」が素晴らしい。川路大警視とご隠居のスリリングなやりとりなど、読後はため息が出たほどでした。また警視庁草紙外伝ともいえる「妖恋高橋お伝」も面白かった。斬首したのは八代目山田浅右衛門で、以前読んだ『綱淵謙錠/斬』での凄惨な斬首の場面を思い出しました。2019/03/23