内容説明
今は昔。いつのころか、一昨年のことだったか―。何だか怪しいなとは思ったが、不思議でならなんだが―。こんな話があった。ほんとの話だ。見果てぬ夢の恋、雨宿りのはかない契り、愛矯のある欲ボケ、猿の才覚話―。貧しい若者、ならびなき風流男、帝、生霊、動物、遊芸人、美女となんでも主人公になる。徹底して滑稽で、哀切で、怪くて、ロマンティックな29話。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
新地学@児童書病発動中
119
前から思っていることだが、田辺さんの筆は古典の世界を描くときに精彩を帯びる。「今昔物語」を田辺さん風に語り直したこの本でも、それを感じた。ここに収められたお話はどれも面白くて、読んでいる間中わくわくと胸がときめいた。遥か昔の人々も今の私達とそれほど変わらない。恋に悩み、幽霊におびえ、富に憧れる。登場人物達に立派な人はほとんどいない。みんな人間臭い人たちばかりだ。だからこそかえって親しみを感じるし、感情移入して読める。物語の喜びを改めて実感させてくれる好著だ。2017/02/05
優希
85
今は昔。怪しくも不思議で美しい物語の数々に酔いました。どのようなものでも主人公になり、奏でる旋律は切なくロマンチックな音楽のようでした。全話がおさめられていないのが残念です。2018/06/21
あきぽん
70
訃報をきき、母の区民講座の教科書本を読む。田辺聖子は女は24歳までだった時代に、30代独身のヒロインの話を沢山書いていた。というか女子(と男子)の本質は、平安時代も昭和も平成も令和も変わらないんだよなあ。変わったのは、社会の仕組みとツールのみ。この本も色あせないショートショート集!2019/06/20
さつき
48
読メで教えていただいた作品。今昔物語は以前別の訳で読んでいるので記憶が残っているお話しもありますが、かなり忘れてました。田辺さんの古典物はきれいな文章で読みやすいですね。美しい恋物語はもちろん、滑稽なストーリーでも品があります。きちんとオチがあり、ほのぼのする話しも好きですが、何が何だかわからない不気味さで放り出されるような物語が心に残りました。2017/03/06
なお
43
「今は昔」で始まる『今昔物語』は、十二世紀頃になったといわれる厖大な説話集。本書の29話は貴族から庶民まであらゆる階級の人が登場し、悲喜交々の物語が面白い。お爺さんが欲しがった一切れの瓜をあげなかったばかりに、籠の瓜全部を失ってしまう「瓜と爺さん」。税の取り立てに行った武人たちが、ある方法で国府にしてやられてしまう滑稽話の「すももの宴」。蜜夫を持つ妻が、夫を亡き者にしようとして失敗。露呈した後の言い訳が厚顔すぎて怖い「鉾の女」。夫婦や恋人の様々な愛憎溢れる話は、やんごとなき人だけのものではないのだ。2025/08/22