内容説明
昭和23年1月26日、帝国銀行椎名町支店に東京都の腕章をした男が現れ、占領軍の命令で赤痢の予防薬を飲むよう告げると、行員らに毒物を飲ませ、現金と小切手を奪い逃走する事件が発生した。捜査本部は旧陸軍関係者を疑うが、やがて画家・平沢の名が浮上、自白だけで死刑判決が下る。膨大な資料をもとに、占領期に起こった事件の背後に潜む謀略を考察し、清張史観の出発点となった記念碑的名作。文字が読みやすい新装版で登場。
著者等紹介
松本清張[マツモトセイチョウ]
1909年福岡県北九州市生まれ。給仕や印刷工を経て朝日新聞西部本社に入社。51年に「西郷札」で第25回直木賞候補、53年に「或る『小倉日記』伝」で第28回芥川賞受賞。56年、朝日新聞を退社し、作家生活に入る。67年、吉川英治文学賞、70年、菊池寛賞、90年、朝日賞を受賞。92年8月死去(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
1 ~ 1件/全1件
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
びす男
90
小説というが、おそらくある程度まで裏を取った上で書いているだろう。そうでなければ、許されないほど思い切った内容だ。どちらかと言えばジャーナリスティックな側面が強い。だからこそ、表題に「小説」の二文字を冠したのかも。731部隊への言及は、最後に少しだけ。それが、著者の書ける精いっぱいの内容だったのか。小説と言いながら、現実の事件を扱うことに苦しんでいるように見え、読んでいるこちらも苦しかった。2017/07/06
yumiko
80
下山事件に連合赤軍事件、そして帝銀事件が、個人的に興味を引かれてやまない昭和の三大事件。清張は「日本の黒い霧」でも帝銀事件を取り上げているけれど、こちらが先行作。つまりはこの事件があの問題作に繋がったと言える。状況証拠と自白に重きを置いた検察側の主張にはかなりの無理があるようだ。屁理屈と感じるところも多々。何より感じるのは、他に例を見ない程に冷酷無比な犯罪を犯したのが、一介の画家であるという違和感だ。今作ではGHQの関与はぼやかされる程度。清張の考察をより理解するには「日本の〜」と併せ読むのがお薦め。2018/03/18
さぜん
67
NHKスペシャルで「松本清張と帝銀事件」を見て、平沢死刑囚の冤罪の可能性と、旧陸軍関係者が関わっていた事実を知り手に取る。膨大な事件資料を元に「小説」という体裁を取り考察された真相は衝撃的だった。捜査は軍部の闇を明らかにできず、誰もが納得しない犯人逮捕で決着する。当時の捜査が自白に重きを置いたことが(最近の袴田事件しかり)冤罪を生み人生を狂わされる。戦後の占領下で握り潰された多くの真実に松本清張は作家として挑んだ。しかし真相は藪の中。明らかにできなかった無念さを感じる。2023/03/30
樋口佳之
64
これほど緻密な犯罪をこんなずさんな対応繰り返す人にできるはずは無いとか、関係者は思わなかったのだろうか。清張史観とかまとめられているけども、軍関係真犯人説をとるこれは納得の酷いお話。2023/01/31
gtn
61
平沢貞通氏は、明らかな状況証拠さえない中、当局と世論が印象操作で作り上げた死刑囚。著者の推理に説得力があるのは、おそらく、予断がないためだろう。2023/06/29