内容説明
花筵問屋の主人庄兵衛は報恩講の席で、娘婿への相続を発表し、仕合せの中にいた。しかしその夜、店の蔵で、雇人が殺された―「蔵の中」。中風の夫のために信心詣りを欠かさない袋物問屋のお房が落ちた罠―「西蓮寺の参詣人」。穀物問屋大黒屋に出入りする厄介者留五郎が惨殺され、その死体には大八車の轍の跡があった―「大黒屋」。わずかな手がかりをもとに岡っ引きが真相に迫る、スリリングな時代短篇集。
著者等紹介
松本清張[マツモトセイチョウ]
1909年福岡県に生まれる。53年、『或る「小倉日記」伝』で、芥川賞を受賞。56年、朝日新聞社広告部を退社し、作家生活に入る。67年、吉川英治文学賞、70年、菊池寛賞、90年、朝日賞を受賞。幅広い分野で活躍する。92年8月没(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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Kira
17
図書館本。五篇の時代ミステリ短編集。三篇は既読なので、「酒井の刃傷」と「西蓮寺の参詣人」の二篇だけを読んだ。「酒井の刃傷」では、老いた国家老の嫉妬が刃傷沙汰におよぶ。松本氏の作品のテーマのひとつに男の嫉妬があるそうだが、老人の孤独感が加わると、嫉妬も凄味を増す。2022/07/11
シュラフ
17
松本清張さん あまりに有名な社会派大作が多すぎて よく知らなかったのですが、江戸時代の捕物帳も書いているのですね。結構 読ませます。松本清張らしく小説はあくまでも事件を軸に展開させており、その中に江戸の街の情緒を織り込んでおり、なんとも味わい深い作品の出来栄えとなっている。表題作の「蔵の中」もいいが、「七草粥」と「大黒屋」もよい。解説によれば、作品のマンネリ化を避けるべくシリーズものを書かなかったとのことで、シリーズ化していればそれなりの存在感があったのだろう。さすがは松本清張である。2014/12/24
Ayah Book
8
時代劇の短編集。どれも面白い。「蔵の中」というと横溝正史を思い出すけど、こっちも悪くないです。特に「大黒屋」は意外な真相でよかった。2017/01/30
りんごさん
3
松本清張捕り物控え 出てくる岡っ引きさん方が派手な立ち回りをしないところがいい、おどろおどろしくも無いのもいい 江戸も清張のいた昭和も今も変わらない人間の欲にはいささか食傷だが 結末が見えるもの、自分には想像がつかなったもの やっぱり清張好きだな。 久しぶりの松本清張でした 2024/10/26
左近
2
松本清張の時代小説をセレクト。捕物帖4本と、士道もの1本。中学生の時に『点と線』を読んだのが初清張。大学生になってから『鬼火の町』を読んで「時代小説も書いてたのか!」と驚き、更に歴史研究エッセイを、感心しながら読んだ。本書の冒頭に収録されている『蔵の中』は、今読むと、何だかユーモラスな本格ミステリの雰囲気が漂い、ミステリ作家としての力量を改めて感じる。余談ながら、史実を描くのが歴史小説、フィクションのストーリーが時代小説と、自分の中で勝手に分類している。一般的な認識とは全く違うでしょうね。2015/08/26