出版社内容情報
三島 由紀夫[ミシマ ユキオ]
著・文・その他
内容説明
森田冴子は、実業家である父と渡米したとき、機内で見かけた国際線ステュワードの精悍な背中に魅せられてしまった。だが、その男、宮城譲二は、スパイ容疑を受けロンドンから消えたとか、傷害罪で保釈中の身だとかいう、物騒な噂が多々ある「複雑な」彼だった。冴子は、彼に翻弄されまいと、必死で恋心にブレーキをかけるが、やがて2人は恋人同士になり…。三島が40歳で書いた、青春恋愛小説。
著者等紹介
三島由紀夫[ミシマユキオ]
1925(大正14)年、東京生まれ。中学時代より習作をはじめ、16歳の時に『花ざかりの森』を発表。47(昭和22)年、東京大学法学部を卒業後、大蔵省に勤務。翌年退職し、本格的に作家活動に入る。49年、初の書き下ろし長編『仮面の告白』を刊行し、作家としての地位を確立。主な著書に、56年『金閣寺』(読売文学賞)、65年『サド侯爵夫人』(芸術祭賞)などがある。70年11月25日、陸上自衛隊市ヶ谷駐屯地にて自決。享年45(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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ヴェネツィア
330
三島のいわば本格的な純文学を揃えている新潮文庫に対して、中間小説風の軽い三島をラインナップさせているのが角川文庫だ。これも、そうした角川の三島コレクションの1冊。タイトルからして軽快だ。主人公の譲二の造形は初めからリアリティを半ば放棄しているし、一方の冴子の方は典型的なブルジョアのお嬢様という設定。譲二の最後の秘密は想像通りだし、結末もかなりに荒唐無稽だが、三島らしいシニカルな終わり方だともいえる。三島の絶妙な「軽み」を楽しむ小説。それにしても、ゲイとおぼしき三島は女心を実によくわかっていると感心する。2013/09/14
じいじ
98
途中で、これは三島由紀夫演出による、社長令嬢・冴子と純情で破天荒な男・譲二を主役に据えたサイコーの「喜劇のエンタ-テイメント」だと思った。周りの事情を気にかけないマイペースの冴子、でも熱の上がった彼に言わせると「オンナ雛をモダンにした女性」だそうだ。とにかく女性というものは、やさしく労われるのは大好きですが、男たちから顔色をチラチラとうかがわれるの嫌いなよううです。二人の恋の行方は、ぜひご自身でお確かめください。新たな三島小説に出合った楽しい一冊でした。2022/02/02
ベイマックス
82
図書館本。『夏子の冒険』も読メの感想で読んでみようと思った作品なので、皆様に感謝です。三島由紀夫作品は『金閣寺』とか『豊饒の海』なんて四部作だし、小難しいという思いからあまり読んでいなかった作家。こんな、時代差があるとはいえ、恋愛小説を書いていたんだなんて、驚きです。夏目漱石・芥川龍之介・太宰治はけっこう読んでいたけど、三島か…。読みたい…けど、現役作家の新刊文庫も続々と出版になるし、積読本と読みたい本が増える増える。◎すごい終わり方でした。2020/11/03
優希
76
ロマンス話でありながら軸にあるのは国際線スチュワードの宮城譲二の過去でした。ヒロイン・森田冴子が機内で出会った譲二と広い世界を巡りながら恋に落ちる様子はたまらなくロマンチックでした。しかし譲二には物騒な噂が多々あるようです。この危うさが純粋な冴子には魅力的に映ったのでしょうか。譲二の抱えている秘密が最後に回収され、冴子との関係のどんでん返しが皮肉めいて見えました。恋愛小説とはいえ、最後は必ずハッピーエンドではないということなんですね。最後の憂いは三島の憂いとも取ることができるかもしれません。2015/04/28
Gotoran
55
実業家のお嬢さん森田冴子と国際線のスチュワードの青年宮城譲二の恋愛模様を描いた作品。宮城は、10代の頃から諸外国放浪し、どこでもモテ、剛腕で、底辺暮しも、闇社会も経験していて、スパイ容疑を受けロンドンから消えたとか、傷害罪で保釈中の身だとかいう、物騒な噂が多い『複雑な彼』だった。恋愛経験豊かな宮城とうぶなお嬢さん冴子の恋愛模様が流麗な文体で描かれている。作家安部譲二氏がモデルという三島由紀夫40歳で執筆した恋愛小説を面白く読んだ。巻末の安部氏の解説も読み応えがあった。2023/01/15