内容説明
第二次大戦中、空爆を行った米軍搭乗員の処刑を命令した容疑で、B級戦犯として起訴された東海軍司令官・岡田資中将は、軍事法廷で戦う決意をする。米軍の残虐な無差別爆撃を立証し、部下の命を救い、東海軍の最後の名誉を守るために。司令官として、たった一人で戦い抜いて死んだ岡田中将の最後の記録。『レイテ戦記』を書き終え、戦争の総体を知った大岡昇平が、地道な取材を経て書き上げた渾身の裁判ノンフィクション。
目次
責任
軍律
横浜法廷
反対尋問
弁護側証人
公判の合間に
司令官の証言
法務官
判決まで
新生
著者等紹介
大岡昇平[オオオカショウヘイ]
1909年、東京生まれ。32年京大卒。在学中より文学を志す。44年召集を受け、赴任地のフィリピン・ミンドロ島で敗戦を迎え、米軍捕虜となる。生還後『俘虜記』『野火』(読売文学賞)『ミンドロ島ふたたび』等、戦争体験に基づく生々しい作品を多数発表した。恋愛小説、翻訳、評伝などの著作もある。71年藝術院会員に選ばれるが辞退。文学者としての良心に従い、率直な文筆活動を続けて、さまざまなジャンルにおいて高い世評を受けた。88年、永眠(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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ヴェネツィア
208
大岡昇平による、10年の歳月を費やされた渾身のドキュメンタリー。元陸軍中将岡田資(たすく)の最後の1年数か月間を描いたもの。岡田は東海軍司令官として、墜落して捕らえられたB29の搭乗員38名を処刑した責任を問われ、B級戦犯として軍事裁判にかけられた。ここから岡田の「法戦」が始まる。彼は一切の責任は司令官であった自分にあったとしながらも、裁判の中で米軍の無差別爆撃が国際法違反であったことを弁護士とともに立証していくのである。絞首刑となった岡田の遺書は、彼の高潔な人格と、人間としての温かみに溢れている。2015/02/07
kawa
53
年末・年始にかけてB・C級戦犯を取り上げる小説「逃走」、「真実の軌跡」、「遠い日の戦争」と読み継いできたのだが、こちらは同じテーマを追うノンフィクションの秀作。主人公は戦犯に捕らわれ絞首刑となった岡田資元陸軍中将。裁判を「法戦」としてとらえ、その責任をわが身だけと主張しながら米側の戦争犯罪も暴き出す。かくも誇り高い人がいたことに静かな感動。良い本に出合え感謝(高橋卓志氏寄贈・図書館本)。2020/02/02
James Hayashi
30
B級戦犯として起訴された東海軍司令官岡田資(たすく)中将は米軍の無差別爆撃は国際法に触れる事と、同時に起訴された部下の生命を救うため法廷闘争を行う。これは記録文学。B29の不時着により米兵27名を殺戮(斬首)の罪に問われ、自らの根本、法華経を元にした法戦。裁判の様子はあまり読み応えを感じないが、哲学を感じるとともに、責任を取るあり方に尊敬を抱く。敗戦ゆえに裁かれる国になり落ち、命を取られる運命。戦争を違った角度から見れた。2017/04/26
金吾
22
○厳しい状況において自らの考えを述べるというのはなかなか出来ないことと感じていますので岡田中将の態度には感服します。高い地位の人が責任をとらなかったため多くの下級者が責任をとらされることが多々あると感じますが、もし自分が岡田中将の立場になった時、恥じない行動をとりきる自信がないことを自省しています。2020/07/10
スー
22
151B-29の搭乗員27名を処刑した罪でB級戦犯で起訴された東海軍司令官岡田資中将は部下を守る為日本の名誉を守る為に法廷で敢然と戦う。岡田中将と弁護士は米兵は捕虜ではなく非戦闘員を虐殺した戦犯であり処刑は正当と主張し、爆撃の被害者達の証言にアメリカ人達が言葉を失う程のショックを受けたくらいで何とか反証しようとしたが住宅街を故意に狙った、照明弾を落としたうえで一般人を銃撃したと認めさせた。検事側から罪を軽くさせる質問も有ったが全ては指揮官である自分の指示と証言し最後は絞首刑になり部下の命を救った。2019/10/19