出版社内容情報
肺病でレイテ島に上陸した田村一等兵。死の予感から、島に踏み出した田村が見たものは。ミンドロ島で敗戦を迎え、米軍捕虜となった著者が、戦地と戦争の凄まじい有様を渾身の力で描き、高い評価を得た一冊。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
背番号10@せばてん。
32
【1951_読売文学賞】1994年9月19日読了。終戦から76年。祈りの月に。(2021年8月12日入力)1994/09/19
佐島楓
28
「永遠の0」の流れで再読。初読は中学生の頃で、しばらくショックが抜けなかった。人とは何か、神とは存在するのか。太平洋戦争下、主人公は南洋の戦地をさまよい、民間人を殺し、死者の横たわる道を行き、不可抗力とはいえ人肉を食することで命をつなぐ。神とは何なのか。この地獄絵図を意図したのも神なのか。人とは武器を使う「猿」に過ぎぬのか。極限の中、人は人でいられなくなってしまう。こんな思いをして亡くなったかたが大勢いらっしゃる。「永遠の0」は資料の中の戦争、この作品は実体験に基づくものである。これこそ文学。2013/09/09
山猫
25
ひかりごけとかアンデスの聖餐とか、人はいろんなシーンで食人というタブーを犯さざるを得ない状況に追い込まれる可能性がある。その時に私はどうするのだろう?現在だって菜食主義者みたいな食生活を送っているのに、いきなり人間を食べたりできるものだろうか?おそらく現実ではそうなる前に、自分が死んでいて、食べられる側に回っているとは思う。思うが、そこは食べる側に立ったとして考えなきゃいけないんだけども、やっぱり考えることからして無理だ。
tsu55
13
米軍のフィリピン奪還作戦に抗しきれず壊滅状態に陥ったレイテ島の日本軍。 物資の補給も途絶え、残された兵士はあてもなく島内を彷徨うばかりだった。 極限状態のなか、生命を繋ぐために「略奪してはいけない」「人を殺してはいけない」「人肉を食べてはいけない」といった人間としての規範が次々と崩れていく。 生きていくためには、他の命を奪わなければないという、人類の原罪は、国家からも軍からも見放されたひとりの敗残兵には背負いきれない重さだったのだろう。2017/05/20
Automne
11
圧倒的な筆致で戦後末期のフィリピンの惨状と、主人公の気高くも儚い自由意志と神の存在が描かれる。曾祖父がフィリピンの玉砕があった島で戦死しているので人ごととして読めなかった。 限界の限界の限界を超えた時、狂ったかにも思えるような凄惨な状況を乗り越えて生きながらえてしまったとき、たしかに人は生かされたと思うのかもしれない。さまざまに現れては消えてゆく人間の命のひとつに過ぎない私たちというものを否応ない歴史から肌身に近い形で感じさせる稀有な一冊。読んでいて良かったと思った。名作に名を連ねるというのも納得。2021/08/05