出版社内容情報
激しい雨の降る夜、眠る夫を乗せた車で老婆を撥ねたかおりは、轢き逃げの罪に問われ、裁判中に息子、拓を出産する。出所後息子に会いたいがあまり、園児連れ去り事件を起こした彼女は息子との接見を禁じられ、追われるように西へ西へと各地を流れてゆく。自らの罪を隠して生きる彼女にやがて、過去にまつわるある秘密が明かされる。『鳩の撃退法』(山田風太郎賞受賞)『月の満ち欠け』(直木賞受賞)著者による最新長編小説。
内容説明
息子の顔見たさに何かひとつ事を起こせばそのたびにパトカーがやってくる。わたしはこれまで三回パトカーに乗った。そのことが繰り返される。それがわたしの人生になる。わたしはパトカーに乗り慣れた老人になどなりたくないし、そんな母親の姿を息子に見せたくもなかった。そんな母親が自分の産みの母親だと知られるべきではなかった。人生を踏み外した女性の静かな決意。『鳩の撃退法』(山田風太郎賞受賞)、『月の満ち欠け』(直木賞受賞)著者による最新長編小説。
著者等紹介
佐藤正午[サトウショウゴ]
1955年長崎県生まれ。83年『永遠の1/2』ですばる文学賞を受賞しデビュー。2015年『鳩の撃退法』で山田風太郎賞、17年『月の満ち欠け』で直木賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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- 評価
乱読太郎の積んでる本棚
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
いつでも母さん
148
熟れてただ落ちていく柿を想像した。違う!頭では楔とか枷という言葉が浮かんで雁字搦めになる。心には母として「息子に逢いたい」思いが募る。くぅ、これ以上の不幸に見舞われませんようにと祈りの読書時間だった。罪は罪として・・だが、違和感に気付いた時「あなたは卑怯だ」そう、何年経とうが言って良いんだ。胸が熱くなるラストにタイトルの意味を理解した。お薦めです。2025/05/19
のぶ
94
感動では収まらない深いものを感じた。主人公の市木かおりは、親族の葬儀に出席した帰りに、大雨の中で車を走らせていた際、轢き逃げ事件を起こしてしまう。その時初めての子を妊娠中。3年の刑期を受け、刑務所の産室で息子を出産、そのまま産んだ息子は取り上げられてしまう。2年半の刑期を終えて仮出所すると同時に元夫から、息子のためと脅されるようにして離婚届けに押印させられる。その先は…。ただ一度の過ちでこれほどの扱いを受けるのか切なくなった。一途に子供の姿を見たいという気持ちは痛いほど伝わってきた。お薦めできる本です。2025/05/01
itica(アイコン変えました)
89
じっくりと染み渡り、深く心に突き刺さる作品。たったひとつの過ちが人生を大きく変えてしまった。恋焦がれる息子に会いたい、それがかおりの望んだ唯一のこと。しかし叶わぬまま、かおりは転々と職を変え、住む場所を移り、過去を背負いながら生きている。淡々と語られる中に彼女の愁いと哀しみばかりがクローズアップされ、(小説の世界なのに)私にも何かできることはないかと思わずにはいられなかった。お勧めです。 2025/05/12
まこみや
63
『鳩撃』以降の作品に見られた、視点の交錯や時系列の転倒もなくて、今回はシンプルな構成だ。しかし主人公の心情に沿った描写と語りの巧緻さはやはり正午さんの小説ならではだと思わせる。いつもと同様、芳醇な物語を読む喜びをたっぷりと味わった。2025/04/13
sayuri
60
「後悔、先に立たず」の言葉が身に染みる一冊だった。激しい雨が降る夜、車を運転していた身重のかおりは携帯電話に気を取られ轢き逃げ事故を起こしてしまう。確かに罪は罪だ。だが、その一瞬の過ちで、刑務所内で出産した息子と引き離され、坂道を転げ落ちていく主人公の姿に同情の念を抱いた。千葉から山梨県笛吹市の石和温泉、岐阜のパン工場、大阪のパチンコ屋、福岡のホテルと行く先々で苦い思いを味わいながら必死に生きる彼女に息子と逢える日が来る事を祈った。最終章はもどかしさと、やるせなさと愛おしさで胸が詰まる。まさに『熟柿』だ。2025/05/01