出版社内容情報
目付の永井重彰は、父で小納戸頭取の元重から御藩主の病状を告げられる。居並ぶ漢方の藩医の面々を差し置いて、手術を依頼されたのは在村医の向坂清庵。向坂は麻沸湯による全身麻酔を使った華岡流外科の名医で、重彰にとっては、生後間もない息子・拡の命を救ってくれた恩人でもあった。御藩主の手術に万が一のことが起これば、向坂の立場は危うくなる。そこで、元重は執刀する医師の名前を伏せ、手術を秘密裡に行う計画を立てるが……。御藩主の手術をきっかけに、譜代筆頭・永井家の運命が大きく動き出す。
内容説明
目付の永井重彰は、父で小納戸頭取の元重から御藩主の病状を告げられる。手術を依頼されたのは向坂清庵。向坂は麻沸湯による全身麻酔を使った華岡流外科の名医で、重彰にとっては、息子・拡の命を救ってくれた恩人でもあった。御藩主の手術に万が一のことが起これば、向坂の立場は危うくなる。そこで、元重は手術を秘密裡に行う計画を立てるが…。
著者等紹介
青山文平[アオヤマブンペイ]
1948年神奈川県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。2011年、『白樫の樹の下で』で松本清張賞を受賞しデビュー。15年、『鬼はもとより』で大藪春彦賞、16年、『つまをめとらば』で直木賞、22年、『底惚れ』で中央公論文芸賞と柴田錬三郎賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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starbro
215
青山 文平は、新作中心に読んでいる作家です。時代小説にしては、珍しいタイトルだと思って読み進めましたが、正に「父がしたこと」でした。ここまで詳細でリアルな医療時代小説は初めてです。江戸時代に麻酔を伴う外科手術を行っていたとは知りませんでした。 https://www.kadokawa.co.jp/product/322304000754/2024/02/13
モルク
119
藩主の信頼が厚い小納戸頭取を父に持つ永井重彰。藩主が長年悩まされていた痔瘻の外科手術を望み、執刀を依頼したのは生まれつき肛門のなかった重彰の息子の再生手術をした蘭方医の向坂先生。藩主の回復を期に父は隠居し、ほどなく向坂先生は事故死、そして父も亡くなる。目撃者もいるあまりに完璧な父の不慮の死に疑問を持った重彰はその真相を知る…。蘭方医を蛮医と呼ぶ世相。その中に重彰の母の芯の強さたくましさに心酔し、産後すぐに肛門のない我が子を抱き抱え家に駆け戻った妻の姿、その思いに涙する。2024/10/26
とん大西
109
幕末の外科医療は黎明期。諸国で実例はみかけてもブラックジャックの世界は遠い現実。麻酔導入のうえ肛門外科手術に立ち会うこととなった忠臣・永井元重と重彰親子。執刀医は重彰の赤子を救った市井の名医向坂。そして患者は永井親子に信を置く藩主。ん~なかなかない舞台設定。医療知識や道具・薬、そして偏見と先入観。今と比較しようもないが、藩主を死地に送りこむかのような永井親子の重圧やいかに…。清廉で実直で。父、子、夫、家臣。生きざまに違いはあれど各々の立ち位置で人知れず悩みもがく元重、重彰。その葛藤は我々と地続きではある。2024/02/11
のぶ
98
読み終わってタイトルの意味が分かった。主人公は、元重の子であり、現在目付の職にある重彰。藩主を支えるべき譜代筆頭の永井家として、御藩主と向坂医師を守るため、元重と重彰は隠密裏に手術を決行すべく段取りを進めるのだが・・。御藩主は永く痔瘻に苦しんでいた。その持病の完全な治癒を図るために御藩主と、御藩主に近侍する小納戸頭取の永井元重が選んだ治療法は、華岡青洲流の全身麻酔を使っての外科手術。そんなエピソードから物語は進行するが、全体を通して江戸時代の医療事情が良く分かった。衝撃のラストにも納得の秀逸な作品。2024/05/04
タイ子
93
医療時代小説。藩の小納戸頭取を務める父・永井元重が息子・重彰に告げる藩主の病名。藩主の施術をするのは向坂清庵、かの花岡青洲の外科流を継ぐ者であり藩主の手術も麻酔を使うという。そこに立ち会うのは元重と重彰の二人のみ。藩主と元重の絆、元重と重彰が清庵に寄せる信頼の深さが文中で十分に伝わる。信頼の意味では重彰の息子は産まれつき体に不具がありそれを治療してくれた命の恩人である。息子の術後に心血を注ぐ妻と義母。そして、読む進めるうちに見えてくる父の苦悩と覚悟。「父のしたこと」ではなく「父がしたこと」の意味が深い。2024/11/11