出版社内容情報
ハンガリー王国大蔵省の職員・バログは、現場担当としてユダヤ人の資産を保護・退避させるべく「黄金列車」に乗り込む。財宝を狙い近づいてくる悪党らを相手に、文官の論理と交渉術で渡り合っていくが――。
内容説明
第二次世界大戦末期。敵軍が迫りくる中で国有財産を守るべく、ユダヤ人の没取財産を積んだ“黄金列車”が、ハンガリー王国の首都を出発した。列車に乗り込んだ大蔵省のバログは、寄せ集めの役人たちの権力争いや、混乱に乗じて財宝や食料を奪おうとする輩に、ベテラン文官ならではの論理と交渉術を武器に闘っていく…。国家も倫理も崩壊する極限状態の中、疾走する列車の運命は?史実を基に力強く飛翔する、スリリングな物語。
著者等紹介
佐藤亜紀[サトウアキ]
1962年新潟県生まれ。91年『バルタザールの遍歴』で日本ファンタジーノベル大賞を受賞し、デビュー。2003年『天使』で芸術選奨新人賞を、08年『ミノタウロス』で吉川英治文学新人賞を受賞。16年に発表した『吸血鬼』と19年に発表した本書はそれぞれTwitter文学賞国内編第1位を獲得した(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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chantal(シャンタール)
62
第二次世界大戦末期のハンガリー。東からはソ連、西からは連合国に追い込まれ、窮地に陥ったハンガリー政府は、国有財産であるユダヤ人から没収した莫大な財宝を列車で移送させる。その財宝を鵜の目鷹の目で狙う者たちから守ろうとする官吏たち。官吏の一人バログには辛い過去がある。バログの過去の記憶が突然挟まれるので、しっかり読んでいないと頭が混乱する。ハンガリーの複雑な歴史も分かっていないとついていけない場面もあるので、誰が読んでも面白い!とはならない難しい小説かもしれないが、読み応えある良作。2025/01/13
NAO
62
ユダヤ人から没収した資産を保護・退避させるためブダペストを出発した黄金列車。この作品は、列車の管理を任されたユダヤ人資産管理委員会のメンバーたちを中心に描かれている。迫りくるロシア軍、なんとか逃げおおせようと焦るメンバー、そんな中、トップの大佐はなんと高価なものばかりをトラックに詰め込み、走り去ってしまう。ようやく国外に出ても、線路使用の許可取りと機関車の確保に四苦八苦、長い貨車は敵の攻撃の的代わりにされる。2023/10/23
びっぐすとん
22
第二次世界大戦末期、ロシアの侵攻からハンガリー政府がユダヤ人から没収した国有財産を守るべく、金銀財宝を積んだ"黄金列車"がオーストリアへ向けて出発した。途中財産の強奪、横領を企む勢力から財産を守った官吏の奮戦の物語(政府もユダヤ人から分捕ってるんだけども)は、普段四角四面のお役所仕事と揶揄される官吏の本領発揮。記録は逐一残し、記載不備ははね除け、受領書を求める。作中で「文官は怖い」と言われているが、武力にも法と書式に則って抗う姿は潔い(ユダヤ人の財産も法の力で奪ってるけど)。これが文民政治だ。解説も必読。2022/05/14
BATTARIA
13
列車が発車したのかまだなのかがさっぱりわからず、からくりに気づいたのは、四分の一程読み進んでからだった。史実自体が藪の中なのに、そこにフィクションを織り交ぜるのは、読み手の当たりはずれの印象は分かれそうだ。それにしても、敗戦亡国となると、人はああも堕ちるものなのか?公僕がそれでも任務を全うすると云えば聞こえはいいが、読んでカタルシスが感じられないのがちとキツイ。ハンガリーがセルビアからむしり取った地で市長となり、もう戻れないというのが切ない。解説者がモリカケサクラを引き合いに出したのは、蛇足もいいところ。2023/10/10
ぱせり
10
理不尽な命令や裏切り、公然の横領、武力による脅し。その都度の官吏たちの駆け引きが見もの。武器をとらず、血を流さず、怪しい輩を退ける文人たちの手腕に舌を巻く。とはいえ、正義、誠意、責任……重たい言葉が頭に浮かんでくるたびに、誰に対しての?と思う。列車のまわりを飛び回る赤毛の少年の一団が、鮮やかに心に残っている。2022/04/14
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