内容説明
運送会社のドライバーとして働く倉内岳は、卓越した剣道の実力を持ちながら、公式戦に出ることを避けてきた。岳の父である浅寄准吾は15年前、アパートに立てこもり、実の息子である岳を人質にとった。浅寄は機動隊のひとりを拳銃で射殺し、その後自殺したのだ。世間から隠れるように生きる岳は、しかし、恩人の願いを聞き入れ、一度だけ全日本剣道選手権に出場することを決める。予選会の日、決勝に進出した岳の前に、ひとりの男が立ちはだかった。辰野和馬、彼こそが岳の父親が撃ち殺した機能隊員のひとり息子だった―。死を抱えて生きる岳と和馬。出会ってはならなかった二人の対決の行方は―。「罪」と「赦し」の物語。
著者等紹介
岩井圭也[イワイケイヤ]
1987年生まれ。大阪府出身。北海道大学大学院農学院修了。2018年「永遠についての証明」で第9回野性時代フロンティア文学賞を受賞し、デビュー(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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いつでも母さん
220
親の罪は子どもが背負うものですかー不条理にも突然父を射殺された子供の心の闇を誰が払ってくれるのだろうかー対極にいる二人の息子の歩んだ先に剣道があった。竹刀を交えて二人にしか分かり合えない感情があるのだろう。加害者家族・岳の母親と被害者家族・和馬の母親の存在が薄くて残念過ぎる。特に岳の置かれた状況は厳しい。父と慕う柴田とも別れ、自分の人生を生きて行く岳に幸あれ!と思う。エピローグは反則です(泣)お初の作家さん、デビュー作も読んでみたい。2019/05/21
おしゃべりメガネ
154
ここ最近、こちらのレビューでよく見かける作品で気になっていたのとタイトルの'夏'と剣道姿の装丁が目を惹き、手にとりました。殺人犯の息子「岳」とその殺人犯に殺された父を持つ「和馬」の二人が運命の再会を果たし、剣道にて対峙します。それぞれの過酷な運命を辿る描写は、ただ者ではない雰囲気がしっかり出ており、剣道での試合のシーンはまさしく息もつかせぬ圧巻の筆力でした。最後のエピローグで全てが明らかになる展開もスマートで良かったです。ミステリーとしても秀でており、ボリュームも適度な感じなので、純粋に楽しめました。2019/07/13
🐾Yoko Omoto🐾
150
加害者家族と被害者遺族、相対する立場となった二人の少年が、やり場のない思いを抱え歩んできた過酷な人生に、胸がキリキリ痛む物語だった。「裂果」同様に追い詰められていく人間の心情描写が抜群に巧く、その苦しみにシンクロせずには読めないほど。周囲の大人たちの様々な事情も物語に深みを与えている。だが個人的にクライマックスの描写に途中から入り込めず。武道が有する精神世界でのやり取りは理解できるものの、いきなりリアリティが失われたような戸惑いと違和感を覚えてしまった。とてもいい作品だが惜しいというのが正直な感想。2019/06/25
モルク
135
父が警察官を射殺して自殺した岳とその亡くなった警察官の息子である和馬は剣道の試合会場で出会う。岳は母親の姓に変えていたが、その父親似の風貌から和馬にその出自がばれる。目立たないようにひっそり生きてきた岳、そして和馬もずっと癒えない傷を抱えていた。その二人が試合の決勝でぶつかる。真逆の立場ではあるが、抱えている闇は同類。だが、被害者側にしてみれば同じとは到底思えないだろう。ふたりはこのあと自分自身の行くべき道を見つけ歩いて行けるのだろうか。歩いていってほしい。2019/10/18
みかん🍊
115
読んでいて苦しくなる、殺人犯の息子と父親を殺された息子、加害者家族も被害者家族も地獄の苦しみを抱えて生きる、犯罪者の父を持つ岳は目立たぬようひっそりと隠れて生きてきた、一方の警察官の父親を殺された和馬も強くある事だけに居場所を求め、互いに剣道に生きがいを求めて生きてきた、岳の方に肩入れしてしまい、自身も警官でありながら犯人の家族まで恨む和馬や優亜は好きになれなかった、岳自身も被害者でもあるのに父親の責任を負わされ隠れて生きて行かなければならないのか。2019/06/11