出版社内容情報
愚かで愛おしい人類の歴史を見守る不死の「伯爵」と少女リラ。彼らの旅路に巻き込まれた兵士は、やがて世界を変える夢を見る--『破滅の王』の著者が壮大なスケールでおくる歴史ファンタジー!
内容説明
泥沼の様相を呈し始めた第一次世界大戦。シャンパーニュの塹壕で死に瀕していたドイツ軍兵士・イェルクは、伯爵と名乗る不思議な男に救われる。引き替えに与えられた使命はただひとつ、リラという少女を護衛すること。不死の存在として人類に関わる伯爵、運命の悪戯でその伴走者となったイェルクとリラは、戦禍の悲惨を見続けるうち、ある決意を抱くが―。
著者等紹介
上田早夕里[ウエダサユリ]
兵庫県生まれ。2003年、『火星ダーク・バラード』で第4回小松左京賞を受賞。プロ作家活動に入る。SF以外のジャンルも執筆、幅広い活動を行っている。11年、『華竜の宮』で第32回日本SF大賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
モルク
108
第一次大戦のさなか前線に送られていたドイツ兵イェルクは死に瀕していたが伯爵と名乗る男に一命を救われる。前線でいまだ戦う実体と精神を分かつ虚体として、不死の魔物である伯爵に少女リラを守ることを使命とされる。戦争を終結させるため、そして人々を飢餓から救うため奔走する。そして虚体のイェルクも魔物となる。壮大なファンタジー。多民族であり、それぞれ独立した民族の国家の再興を欲するが、歴史の渦に巻き込まれていった中欧の立場もよく描かれている。個人的には伯爵の過去と「ヴラド三世」のくだりが最もよかった。2019/12/19
buchipanda3
76
第一次世界大戦の欧州戦地を舞台に描かれた歴史ファンタジーロマン。苛烈な前線で瀕死の重傷を負ったドイツ軍兵士イェルクは伯爵を名乗る不死の魔物に救われる。虚体として不思議な力を与えられた彼は魔物としてリラという少女と共に戦争に関わることに。伯爵の故郷ワラキアの歴史も含め、時空を超えた人ならぬ者から見た戦争の悲惨さ、不条理さ、そして同じ争いを繰り返す愚かさが綴られていた。話が壮大な分、ドラマティックさに欠けた流れは物足りなさを感じたかな。ただ、実体と虚体の二つの視点から戦争の虚無感を描き出す展開は妙味を感じた。2019/05/09
とろとろ
72
最後の追記に「これは魔物が登場するファンタジー」だとある。この作家さんの特徴として膨大な資料が参考文献として載せられている。この前に読んだ「破滅の王」は確か731部隊の話だったと思うが,この時も「よくこんなに調べたなぁ」みたいな感想だった。今回は主人公と対を成す「伯爵」たる魔物が、そもそもトランシルバニア地方出身で、ヴラド3世やら、400年以上も生きているやらで、これはあの伝説の魔物に第一次世界大戦を絡めたんだなと。欧州を主戦場とする戦争は、日本人はあまり知らない話なんだろうなと思うばかりでした。2020/02/26
あおでん@やさどく管理人
48
権力者たちの政治的駆け引きというよりは、戦地や銃後の人々の「生きるための戦い」を描いている。敵の兵士を殺し続けたり、毎日の食べ物もままならなかったり…。そんな状況が長く続けば、人間が魔物のような存在になってしまうのも無理はない。この作品の舞台は第一次世界大戦中のヨーロッパだが、8月のこの時期ということもあり、七十数年前に各地に派遣された日本兵たちのことも頭をよぎった。魔物となった彼らが、今もどこかで生きているのかもしれない。2019/08/18
ミライ
47
上田 早夕里さんによる第一次世界大戦中のドイツを舞台にしたファンタジー長編。戦争で死にかけていたドイツ兵の主人公ウェルクが「伯爵」と名乗る不死の男に救われることから物語はスタート、ふとしたことで不思議な力を得たウェルクはリラという少女を護衛することになる、、、一次大戦中のヨーロッパ諸国の史実はそのままにファンタジー要素をうまくからめた作品、一次大戦前後の歴史を学んでおくとなお楽しめる。ハリポタ続編映画の「ファンタビ」を意識している?部分もある、最後までテンポよく非常に読みやすかった。2019/05/01