内容説明
とある港町、運河のほとりの古アパート「霧笛荘」。法外に安い家賃、半地下の湿った部屋。わけ知り顔の管理人の老婆が、訪れる者を迎えてくれる。誰もがはじめは不幸に追い立てられ、行き場を失って「霧笛荘」までたどりつく。しかし、「霧笛荘」での暮らしの中で、住人たちはそれぞれに人生の真実に気付きはじめる―。本当の幸せへの鍵が、ここにある。比類ない優しさに満ちた、切ない感動を呼ぶ7つの物語。
著者等紹介
浅田次郎[アサダジロウ]
1951年東京都生まれ。95年『地下鉄に乗って』で吉川英治文学新人賞、97年『鉄道員』で直木賞、2006年『お腹召しませ』で中央公論文芸賞、司馬遼太郎賞、08年『中原の虹』で吉川英治文学賞、10年『終わらざる夏』で毎日出版文化賞、16年『帰郷』で大佛次郎賞など、数々の賞を受賞している(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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ふじさん
98
訳ありの老婆が管理する霧笛荘に住む人々の悲哀に満ちた人生模様を描いた作品。自殺願望のホステスの千秋、彼女を優しく見守る眉子、オナベのカオル、ヤクザのカンカン虫の鉄夫、バントボーイの四郎、元軍人のキャプテンの園部、それぞれの個性が際だって面白い。特に、四郎と姉とのエピソードは泣けるし、園部の元恋人との逸話は戦争絡みで心が痛む。霧笛荘に住む人々は、それぞれの関わりから、人生の真を知ることになる。人間にとってはの本当の幸せとは何かを問いなおすことになる。優しさに溢れた切ない感動が残る。 2022/08/04
shizuka
68
町外れのボロアパートからこんこんと湧き出るロマン。大家の老婆、そして過去の住人たち、不幸のどん詰まりで行き着く最後の場所だというけれど、選ばれし者しか扉を開けることは叶わない。いくら私が霧笛荘に住みたいと思ったって絶対にたどり着けない。私はまだまだ自分へのご褒美を狙っている。そういう邪な気持ちがあったら絶対に霧笛荘で暮らすことはできない。老婆太太が来訪者に言う「ここの住人は決して不幸ではなかった」の言葉が響く。末期はそれぞれでも彼らは精一杯生き抜いた。霧と温もりが全てを赦し貴方を優しく包む、そんな霧笛荘。2018/04/16
馨
63
老婆がオーナーしているものすごく不気味な外観の霧笛荘というアパートに入居していた6人の人間のエピソード。構成が上手くてあっという間に物語に引き込まれて読了。それぞれ、死にたい女、変わりたい女、バンドマン元ヤクザ等個性的。エピソードごとの短編だけどラストの話で全員登場します。皆人間としての大切な芯をしっかりと持っている人たちで、お金よりも大切なものを教えてもらえた気がします。2018/04/14
Yuma Usui
37
哀しみとともに爽やかさを感じる七つの物語。運河のほとりの古アパートに住む6人のエピソードが主に語られる。短編集に近いけど各話の登場人物が互いに関わり合う点で膨らみを感じられ話に引き込まれた。個人的に、カオルがいろんな意味でその変わりっぷりに驚いたり人情味に胸を打たれたりと1番印象に残る人だった。2020/05/21
ドナルド@灯れ松明の火
36
先日「わが心のジェニファー」でがっかりしたばかりだが、この本は浅田さんらしい、昭和の時代の匂いがプンプンする人情溢れる話だった。霧笛荘各室の住人の話がどれも切ない。 お薦め2018/11/01