出版社内容情報
孤独の心を抱いて伊豆の旅に出た一高生は、旅芸人の十四歳の踊り子にいつしか烈しい思慕を寄せる。青春の慕情と感傷が融け合って高い芳香を放つ、著者初期の代表作。孤独の心を抱いて伊豆の旅に出た一高生は、旅芸人の十四歳の踊り子にいつしか烈しい思慕を寄せる。青春の慕情と感傷が融け合って高い芳香を放つ、著者初期の代表作。
川端 康成[カワバタ ヤスナリ]
著・文・その他
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
びす男
95
「ほんとに、いい人ね。いい人はいいね」。言わずと知れた川端康成の名作を、久しぶりに読み返した。純真無垢な踊子の姿に、心が洗われる。顔を赤らめる表情、語彙が少ないからこそあっぴろげで瑞々しい言葉遣いなど、著者の筆致は少女の魅力をさまざまに切り取っている。わずか数日を共にしただけだが、踊子に主人公はいたく心を打たれたようだ。旅をすると、物事は三割増しくらい素晴らしく見えてくる。そんな旅行者特有の心理も働いているだろう。すぐれた旅行譚でもある。他の短篇では、意外にホラーや狂気を感じる作品が多いのが印象的だった。2017/10/17
キャプテン
72
★★★★☆_「旅フェア☀︎キャプさんぽ☀︎」第三弾。ーー感嘆。いったいどうして……まさかこんな……。川端康成の不朽の名作。知らない人はそんなにいないだろう。少しだけ卑屈になっていた青年が、伊豆に向けてひとり旅をゆく。旅路の途中で出会った旅芸人(現代イメージのそれとは乖離がある)の一人の踊子に心を洗われる。当然、影響を受けやすい俺も心を洗われる。最後の奥ゆかしさ、現代の日本では絶滅しかけているもの。青年の口調はかなり大人。まさか、まさか、まさかこの青年が若干20歳だなんて!もっとしっかりしますごめんなさい!2017/01/07
佐島楓
27
表題作ほか七編収録。踊子以外は未読の作品ばかりだったし、角川文庫版も初めて。表題作は記憶していたものより短く感じたが、情景が浮かぶ。「むすめごころ」といういびつで純粋な愛情の物語に驚いた。歪んだ愛のかたちをよく書かれる方だと思っていたが、これは川端康成本人の心の底を掬って出てきたものなのだろう。短時間で異世界へのトリップをしたような読後感だった。2013/07/30
A.T
23
角川文庫編者の意図であろうが、川端康成のわかりにくさを凝縮したような短編集。夢や霊媒現象なのか、生死のはざまなのか… 判断つきかねる心理状態の「青い海〜」「慰霊歌」は、川端康成の意識の内へ内へと向かう危うさを感じる。ドラッグが当時存在していれば必ず手を出していたでしょうね。「驢馬に乗る〜」「むすめ〜」「父母」は歪んだ恋愛感情を抱く。この感情は一方で江戸川乱歩や横溝正史の隠微なミステリーへ昇華するが、川端康成はドロドロとあてのない人間関係の崩壊へ… その行き場のない状況を描く筆力が凄い。2022/09/25
東京湾
20
今更言うまでもないことかもしれないが、文章が本当に美しい。読み始めてまず最初に思ったことがそれだった。人はここまで読む者に美麗な情景を想起させる文章を書くことができるのかと、感嘆させられた。そしてその文章から、どんどん物語の中へ引き込まれていく。収録された八篇の内、特に気に入ったのが「伊豆の踊子」「慰霊歌」「むすめごころ」の三篇。前二篇は、純潔でありまた耽美であり、じわじわ心の中に染み込んでくるようで、月並みな表現になるが美しかった。そして最後、これは何だか和やか且つ仄かに切ない気持ちにさせられた。名作。2016/06/07