内容説明
「ふるさとは遠きにありて思ふもの そしてかなしくうたふもの」で知られる室生犀星の初期抒情詩を集めた『抒情小曲集』。詩人の至純な魂の表皮がそのまま現実の荒波にさらされたかのごとき『愛の詩集』。そして、女性の「美」を奔放自在な言語表現で獲得した最後の詩集『昨日いらつしつて下さい』。以上三冊の詩集を中心に、各時代ごとの犀星の詩のエッセンスを収録。七十二年に及ぶ詩人の生涯とその魅力を、余すところなく伝える決定的な文庫版詩集。
目次
詩集 抒情小曲集
詩集 青き魚を釣る人
詩集 十九春詩集
詩集 愛の詩集
詩集 第二愛の詩集
詩集 忘春詩集
詩集 鶴
詩集 昨日いらつしつて下さい
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
メタボン
24
☆☆☆☆ 如月小春の解説が良かった。若き日の没入するような読み方から、詩とともにある日常に静かに心を寄せるような読み方へ、そして老いれば老いるが故の懐かしく深い読み方へと移り変わっていく。そのように詩が寄り添ってくるのが室生犀星の良さなのかもしれない。「垣にそひて」より~爪は心に重みのあるときや/悒悒(くさくさ)したときによく伸びるといふ~ 「秋の終わり」「春の寺」「はる」「女人に対する言葉」「この喜びを告ぐ」「このひと」「昨日いらつしつて下さい」「みなあれから」が今回心に沁みた。2016/02/06
不識庵
12
奥付を見ると、どうやら大学生のころに買ったらしい。部屋の掃除をしていたら発見した。ふと当時暮らしていた商店街を思い出す。「カラマーゾフ」を読んでいる最中だが、頁を繰りだしたら、読み終えていた。奇しくも作中で幾度かドストエフスキーに言及されていた。一読しただけで犀星の生涯が偲ばれてくる。素直な文章ということになるだろう。詩人の抒情が伝わってくる。鼻につく一文はない。どうやら抒情は作為的に表すものではないらしい。“海なりは空を行く”。簡潔にして豊穣な表現である。2020/05/20
双海(ふたみ)
10
「けど、/だめなの。/けど、どうでも、/もう、いいわよ、……」「雨は愛のやうなものだ/それがひもすがら降り注いでゐた」2022/07/02
❄️
6
ーーいやな世界とも戦ふ。真実でないものとも戦ふ。自分のこの小さく優しい犠牲の精神は、自分にとつて永い味方であり、自分を鎧ふべききびしい味方だ。/『万人の愛』2022/10/31
❄️
6
ーー自分は夜更けてからもマリア像のある壁の前に坐つてゐた。聖母マリアの白いひたひは美しかった。くる晩もくる晩も自分はひとりきりであつた。/『万人の愛』2023/03/01