内容説明
にわか雨に傘をひらき、慌てふためく街のさまを見ながら歩きかけると、結いたての潰島田の頭を入れてきた女がいた。わたしとお雪の出会いであった―。私娼窟が並ぶ向島の玉の井を訪れた小説家の大江匡は、かすかに残る江戸情緒を感じながら彼女のもとへ通うようになる。移ろいゆく季節と重苦しい時代の空気の中に描き出される、哀しくも美しい愛のかたち。永井荷風の最高傑作が、文字が読みやすく解説の詳しい新装版で登場。
著者等紹介
永井荷風[ナガイカフウ]
明治12年(1879)12月3日、東京生まれ。高等商業学校附属外国語学校(現・東京外国語大学)清語科除籍。広津柳浪や福地桜痴に入門、一時は落語家や狂言作者を目指す。ゾラに傾倒し、35年、「地獄の花」を発表、自然主義作家としてデビュー。36年から、米国、ついでフランスへ渡り、41年に帰国。「あめりか物語」「ふらんす物語」で一躍文名を高めた。43年、慶應義塾大学教授に就任、雑誌「三田文学」を創刊、主宰し、反自然主義の立場から耽美主義の傾向を深める。洗練された江戸情緒と花柳趣味の漂う戯作的描写を得意とし、主な作品に「〓(ぼく)東綺譚」の他、「腕くらべ」「つゆのあとさき」などがある。また断腸亭主人と号し、「断腸亭日乗」などの日記文学を残した。昭和27年(1952)、文化勲章を受章。後年は浅草通いで知られた。34年(1959)4月30日死去(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。