出版社内容情報
書斎の小箱に昔からある銀の匙。それは、臆病で病弱な「私」が口に薬を含むことができるよう、伯母が探してきてくれたものだった。成長していく「私」を透明感ある文章で綴った、大人のための永遠の文学。
内容説明
書斎の本箱に昔からしまってあるひとつの小箱。その中に、珍しい形の銀の小匙があることを私は忘れたことはない。その小匙は、小さな私のために伯母が特別に探してきてくれたものだった。病弱で人見知りで臆病な私を愛し、育ててくれた伯母。隣に引っ越してきたお〓(けい)ちゃん。明治時代の東京の下町を舞台に、成長していく少年の日々を描いた自伝的小説。夏目漱石が「きれいだ、描写が細く、独創がある」と称賛した珠玉の名作。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
そる
357
途中まで退屈だったが学校上がった頃から盛り上がり読み進んだ。この病弱で繊細な主人公を根気強く育てる伯母に脱帽。私ならノイローゼ(笑)。そしてこの子がたくまくしくなっていく様が清々しく、自然、祭り、人間模様、玩具や遊びとか、煽りすぎない素朴な表現がとても素敵。しかし昔の子供社会はいじめからかい仲間はずれ多く女子は学歴主義で結構辛辣だな〜。「私はいつになく喜んで昼飯をたべてたのにおりあしくむこうから人がきたものですぐさま箸をほうりだして もう帰る といいだした。生きもののうちでは人間がいちばんきらいだった。」2021/06/18
ゴンゾウ@新潮部
102
文庫本の装丁の清々しさに惹かれて手にとった。病弱で人嫌いの少年が幼児から青年に成長するまでを描いた物語。少年の目線で物語は語られており、ひとつひとつの描写が精緻でとても美しい。節目、節目での大切な人の出会いの出来事が少年を少しずつ成長させていく。解説の川上弘美さんが言われる通り美という武器を持った冒険記である。2017/06/11
オリックスバファローズ
89
主人公の少年は神田の生まれだが、それをとても不幸だと嘆いている、つまり下町の威勢のいい気風と、自分の気弱な性格が合わないのである。「私のような者が神田のまんなかに生まれたのは河童が沙漠で孵ったよりも不都合なことであった」と、読んでいるほうがこの子は大丈夫かなあ?と心配になるほどだが、しかしそんな弱さをいつも温かく受け止めてくれるのが伯母さんなのであり、いつでも一所懸命で、とことん少年を愛しました。この愛情が少年の記憶を照らす、かけがえのない光になっているのであった。2018/04/15
扉のこちら側
74
初読。2015年953冊め。漱石が絶賛するだけあって、日本語の美しさが際立っている。「翼をたおたおと羽ばたいて」。小説ではなくエッセイで、登場する人々が実在していたかのように存在感がある。カドフェス2015。2015/08/07
bluemint
64
この本を始めて読んだのは小学校低学年に父から岩波書店版を買ってもらったときである。とても全部は読めなかったが、冒頭の銀の匙が入っている箱のふたの閉まる「ぱん」という音が50年以上たった今も強く印象に残っていて、最近目に付いたので購入した。意気地なしで自意識過剰な、よく言えばナイーブな少年の身の回りの物事をあきれるほど細かく感情をこめて描写している。特にストーリーはないが、圧巻は小さい頃親身になって育ててくれた伯母に再会する場面で、思わず涙がこぼれた。2017/04/11
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- 和書
- 巨尻JKにるがめちゃん