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内容説明
―ごらんなさい。あの花の盃の中からぎらぎら光ってすきとおる蒸気が丁度水へ砂糖を溶かしたときのようにユラユラユラユラ空へ昇って行くでしょう。―小さな白いチュウリップから湧きあがる光の酒に酩酊して、洋傘直しと園丁は、色めく春の幻想を見ます…。二人の交歓に沿って展開されるファンタスティックなイメージと、光の明暗が美しい東北の春の情景を、画家・田原田鶴子が鮮やかな色彩で描き出しました。小学中級から大人まで。
著者等紹介
宮沢賢治[ミヤザワケンジ]
1896年岩手県に生まれる。盛岡高等農林学校農芸化学科卒業後、同校研究科修了。農業研究家・農村指導者として活動するかたわら文芸の道を志し、短歌から詩・童話へとその領域を広げながら創作を続けた。1924年に詩集『春と修羅』と童話集『注文の多い料理店』を上梓したが、彼の作品のほとんどは没後に高く評価された。1933年没
田原田鶴子[タハラタズコ]
1956年岩手県盛岡市に生まれる。岩手大学教育学部甲一類美術科卒業。美術関係出版社を退社後、毎日新聞日曜版やPR冊子の挿し絵・イラストの仕事を重ねる。現在は宮沢賢治童話の世界にしぼって油彩画の制作に励み、盛岡市・川崎市などで個展を開催
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
Hideto-S@仮想書店 月舟書房
71
農園に入っていった洋傘直しの職人。一人の園丁が迎えて鋏研ぎを頼みます。晴天の下、仕事が終わって園丁は、春の花が咲き誇る庭に職人を招きます。赤・橙・黄・桃色のチューリップ。その中で特に不思議な白い花。盃のような花弁から光の酒が湧き出して、幻想的なイメージが出現します。大きな空に浮かぶ白い雲、遠くに広がる山々。田原田鶴子さんが描く東北の春の風景はくっきりと鮮やかで美しい。2003年4月初版。2015/03/29
とよぽん
45
宮沢賢治の童話。これは読んだことがなかった。田原田鶴子さんの油絵が、まるで現代の農園での一コマのように映し出している。「まっ赤な花がぷらぷらゆれて光っています。」というチュウリップの花の描写も面白い。他にも雲や太陽、光の様子を比喩やオノマトペで躍動的に表すところが、いかにも宮沢賢治だなぁと思った。行きずりの洋傘直しと園丁の会話、人も自然も一期一会。その素晴らしさ、はかなさを「幻術」という言葉がズバリ示しているのだろう。2020/06/05
gtn
32
五月の陽射しの下、西洋剃刀の研ぎ映えに満足し、お代を受け取らない洋傘直し。それでは済まないと、自分がこしらえた花畑を観るよう勧める園丁。白いチューリップから湧き上がる光の酒に酔う二人。著者も酔っている。その証拠に、洋傘直しに声を掛けなくなった。2021/05/11
Kikuyo
31
物語を文字だけで追った時の、ちょっと時代を感じさせる空気はここには無く、少しばかりおしゃれな感じに仕上がっていて楽しめる。遠くに見える青紫色の山も東北の景色なんでしょうね。空気がグルグルする空間、幻想に巻き込まれる感じ、光の酒に酔うシーンにこちらもクラッと酔う…。一瞬、漫画家ますむらひろしさんを思い出しました。2017/03/16
Rosemary*
30
春爛漫の美しい庭園のなかで洋傘直しと園丁が、チュウリップから湧き上がる光の酒に酩酊し、不思議な幻想の中を漂います。光の明暗、色彩の鮮やかさが、良く伝わってきます。東北に訪れる待ち焦がれた春をとても美しく描かれていると思う。2013/12/01