出版社内容情報
画聖・雪舟が描いた傑作「天橋立図」は単なる風景画なのか? あそこまで詳細に描いた理由は何か。また、当時の地形からは見えるはずのない角度から描かれた手法とは……。雪舟の生涯を辿りながら、「天橋立図」に隠された謎に迫る。
内容説明
もはや、単なる水墨画とは言えない―。雪舟が最晩年に描いた「天橋立図」。そこには、単なる風景だけでなく、あらゆる情報が隠されていた!禅宗の世界と五山文学にはじまり、政治史から芸能、中世神話、日明交渉史から中国の地方誌・寺誌まで、さまざままな情報をもとに雪舟の人生と国宝の一幅の謎を読み解く。
目次
序章―なみだでねずみ
第1章 天橋立図の謎
第2章 雪舟あらわる
第3章 雪舟のイメージ戦略
第4章 雪舟入明
第5章 豊後と美濃への旅
第6章 再び天橋立図
著者等紹介
島尾新[シマオアラタ]
1953年東京都生まれ。東京大学大学院修士課程修了。独立行政法人国立文化財機構東京文化財研究所美術部広領域研究室長、多摩美術大学教授を経て、2012年より学習院大学教授。日本中世絵画史専攻(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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パトラッシュ
96
禅僧が大名に仕えて他国との交渉にあたる外交僧は、戦国期では珍しくない。そのひとりが水墨画もよくし、画僧として名声を得たならば活躍の場はさらに広がるのではないか。各地を旅して絵を描いていても不審視されず、有力者に絵を贈って取り入り、文章だけではわからない現地の事情を絵画の形で報告できた。有名な『天橋立図』に見られる不自然な描写の分析から始まり、雪舟が実は山口の大内氏の諜報員ではとの推測を裏付けていく。敵対する大友氏の城下町でも、明国帰りの画僧として歓迎されたのだから。証拠は皆無だが小説的な面白さを堪能した。2022/07/23
榊原 香織
76
面白かった。 室町時代の画聖、雪舟は大内スタッフであり、インテリジェンス、オフィシャル・フォトグラファー。 天橋立図は報告のためのスケッチにすぎない。 時は応仁の乱、政治的な背景抜きには考えられない。 ”秋冬山水図”の新奇さ、”破墨山水図”の素晴らしさ。画家としてももちろん超一流。2022/08/20
へくとぱすかる
64
現代ではケーブルカーにも乗れて、遊園地もある。天橋立は大いに気に入っている観光地で、歴史が気にもなる存在。室町時代の雪舟には孤高の画僧というイメージがあるが、自己アピールにたけた人であったらしく、大内氏にも庇護され、名を高めた後半生だったようだ。80歳をすぎてからの「天橋立図」(国宝)は見事だが、下書きであり、完成作はあったのか、何のために描かれたかなど、そんな謎について、歴史の動きとからめながら解かれていく。500年前の景観を細かく伝えてくれる作品だが、現代の風景と比べてみた異同点にも興味がつきない。2022/05/16
umeko
21
これまで「画聖」というイメージに引っ張られ、水墨画を地味にコツコツ極めた人といった印象だった。そんな印象を覆し、雪舟という人となりが感じられて面白かった。この本ではあまり取り上げられなかった画業の側面で、「慧可断臂図」のインパクトと「天橋立図」の細緻さのギャップに興味が沸き、今後掘り下げてみたいと思った。2022/05/25
でかぱんちょ
17
近年、雪舟に関する研究で新たな発見が色々あったとメディアで知り興味を持って読みました。これまで画聖として一生を絵の求道者として終えたと思っていましたが、人生の後半は大内家の庇護の元、当時の政治情勢と密接に関わって各地を行動していたと知って意外な驚きがありました。それにしてもあの京都国立博物館にある「天橋立図」が実は下絵だったなんて、現存しない完成図をぜひ見たかったなあ。2023/02/12