出版社内容情報
めくるめく上質。芥川龍之介「羅生門」、村上春樹「ノルウェイの森」、シェイクスピア「ハムレット」、トールキン「ホビット」……。翻訳の世界を旅しよう! AIにはまねできない、深い深い思索の冒険。山本史郎(東京大学名誉教授)翻訳研究40年の集大成。
内容説明
40年の翻訳研究、魂の集大成。ディケンズから村上春樹まで、AIにはけっして真似できない、深い深い思索の冒険。
目次
第1章 『雪国』の謎―人間の思考はすべて「翻訳」だ
第2章 「同化翻訳」と「異化翻訳」―アメリカの翻訳者には顔がない
第3章 視点と語り―文化圧とは何か
第4章 実用と文学のはざま―AIはなぜ「通訳」を殺すのか
第5章 岩野泡鳴と直訳擁護論―読めない翻訳をなぜ作ろうとするのか
第6章 翻訳家の仕事場―そこまでやるか『ホビット』!
第7章 翻訳と文体―どうやって「似せる」か
第8章 翻訳革命―新たな翻訳論への旅立ち
著者等紹介
山本史郎[ヤマモトシロウ]
1954年、和歌山県生まれ。東京大学名誉教授。昭和女子大学特命教授。英文学者。翻訳家。東京大学教養学部教養学科卒業(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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梶
37
研究の視点を得られれば、と読んだ。読みやすい語りで、実際の翻訳の事例や翻訳論を取り上げながら、文学の翻訳とはどういうものか、そして、翻訳という行為はどういうものかに肉薄してゆく。意味空間を翻訳すること、原作と翻訳文の間には現実というファクターが介在し、直接的につながっていないことなど、図解も有って分かり易い。著者が長年の研究者生活の結晶として示すこれからの翻訳モデルは一見の価値アリだと思う。 2020/07/20
羽
23
翻訳は「直訳」と「意訳」の2種類。そう考えている人は、読めば目から鱗が落ちるはず。日本文学が世界中でどのように翻訳されているか比較したり、英米小説の原文と日本語訳を見比べたりすることは、気になるけどできないので、本書で授業を受けられてよかったです。原作の要素を可能なかぎり多く写す。もっとも目立つ特徴に注目する。作者の頭の中、あるいは意識の下に渦巻いているイメージから、適切な表現を引っ張り出す。わたしたちが異文化の作者が描いた世界にアクセスできるのは、翻訳者が世界を再構築し、忠実に再現しているからなのです。2021/01/19
Nobu A
11
山本史郎著書初読。2019年に東大を退官された著者が30年の翻訳学の知見を纏めた1冊。まず、東大の教師陣に驚く。同じく数年前に退職された柴田元幸先生の著書は既に数冊読了済み。翻訳は起点言語と目標言語の両方にある程度精通していないと成り立たない。東大だからこそ複数の優秀な教師の需要があるのだろう。出だしは興味を惹いたが、中盤から翻訳を体系的に論述と言うよりは文学の話に大半が割かれている気がした。失礼だが、同じように授業内容を本にした柴田先生の「翻訳教室」の方が臨場感もあり面白い。どちらも難しくはあるが。2020/09/01
Inzaghico (Etsuko Oshita)
10
けっこうご自分の自慢が多いのに、思わず苦笑してしまう。また、都合のいいときにひょいと脇道にそれてしまうのにも、また苦笑。「なぜ文明人ならそう読めるのか、言語学者には説明する義務があるかもしれません。しかし、私はうだつのあがらない一介の翻訳論の研究者なのでその義務はありません」って、自分はすごいと言っているのに、これは(苦笑)。 村上春樹のライ麦畑と、柴田元幸のトム・ソーヤーの翻訳のくだりは納得。どちらも原文をゆるがせにせずに、日本語の読みやすさ、美しさももたらそうとしている。2020/07/05
shk
9
著者は研究者であり翻訳家。まず、議論のベースとなる「同化と異化」、直訳、意訳、逐語訳などを詳述。次いでターゲットを文学翻訳に定めたうえで、文学の意味世界の再現について具体例を検討しながら論じる。良かった点は2点。まず、翻訳論では有名な同化と異化などの考え方(いかにも西欧圏的な発想)を、日本(語)のコンテクストに照らして明確にしているところ。もう一つは同じ原文に対する複数の翻訳作品を比較検討し、著書自身の試訳も示しながら、いかに原文の世界を別言語で再構築するか詳らかにしているところ。→2024/11/18