出版社内容情報
菜種油を扱う長崎の大店・大浦屋を継いだ希以(けい)26歳。幕末の黒船騒ぎで世情騒がしい折、じり貧になる前に新たな商売を考える希以に、古いしきたりを重んじる番頭の弥右衛門はいい顔をしない。やがて店は火事で焼け落ち、父は出奔、迎えた婿も気に入らず、いつしか独りで大浦屋を支えることを誓う。幼い頃に亡くなった祖父から聞いた言葉、「海はこの世界のどこにでもつながっとるばい。昔は自在に交易できたばい。才覚さえあれば、異人とでも好いたように渡りあえた」が幾たびもも胸に甦る。たまたま通詞・品川藤十郎と阿蘭陀人の船乗り・テキストルと知り合い、茶葉が英吉利では不足しているという話を聞き、ここぞと日本の茶葉を売り込む。待ちに待って3年後、英吉利商人のオルトが現れ、遂にお希以は旧弊なしがらみを打破し、世界を相手にするのだ――。成功と落胆を繰り返しつつ、希以――大浦慶が経たいくつもの出会いと別れ。彼女が目指したもの、手に入れたもの、失ったものとはいったい何だったのか。円熟の名手が描く傑作評伝。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
優希
53
商人から見た幕末というのは珍しいのではないでしょうか。黒船来航で騒がしい時代、異国との交易に乗り出す大浦慶。大河ドラマにしても面白くなりそうです、2023/05/23
エドワード
39
長崎の油商店の女主人・大浦慶は、慣習に囚われない進取の精神を持つ。出島、阿蘭陀船、長崎の街が彼女を異国への関心を持たせ、激動する幕末明治の世は、彼女にとって格好の舞台であっただろう。茶葉の交易に成功し、ヲルト、ガラバア等の外国人の信用を得る。坂本龍馬、大隈重信等も彼女の元へやってくる。落とし穴は煙草葉の取引詐欺事件で、莫大な借金を負いながらも完済し、ついには船舶を修理する横浜製造所に出資するまでになる。最初は軽々と新事業に乗り出す慶を諫めていた番頭の弥右衛門が、慶を頼もしく支えていくところが感動的だ。2022/12/13
hukkey (ゆっけ)
23
日本茶葉交易のファーストペンギン。幕末の長崎から外交で巨富を築いた女商人・大浦慶の半生を描いた作品。実在したとも知らなかったけれど、夢中で事業を軌道に乗せ、身勝手な家族や入り浸る若い志士の世話を焼いたり、詐欺の保証人になったりと波瀾万丈で面白い。いつの時代も新しいことを始めれば古い慣わしや女への偏見に邪険にされる。知恵が付けば後先考えて躊躇するし、弱みにも漬け込まれる。でも捨てる神あれば拾う神あるのは人の縁を大切にしてきた結果で、挫けそうになりながらも腐らず精一杯、為せば成ることを体現する姿に胸打たれる。2023/01/10
Y.yamabuki
19
お希以(慶)がとても魅力的。周りは男ばかり、相手が武士でも商人でも外国人でも臆すること無く堂々と渡り合う。傾きかけた油商を当初は綱渡りの様な茶葉の輸出で立て直し、どん底の時代も諦めること無く、商いは「信義」だとばかり踏ん張り、その後は次々とビジネスを展開していく。彼女の心にあるのは「信義」と大きな海に出てその向こうの人々と商いをしたいという気持ち。そんなお慶の姿は爽快だ。お慶は実在の人物であり、幕末の志士や外国商人が登場するのも面白い。2023/01/29
マダムぷるる
17
幕末期から明治にかけての長崎を舞台にした女豪商の物語はなんとも痛快であると同時に感嘆するものだった。若い女性でありながら先見の明を持ち、外国や幕末の志士、維新後の国を作った数々の名士と交流を持つ大浦慶。その生き様は私利私欲に囚われたものではなく、国の未来を見つめ、新しいものを積極的に貪欲に求めるものだった。弥右衛門や友助、お政やおみつなど、魅力的で慶を支える人びともまた魅力的に描かれていた。→2022/12/31