出版社内容情報
『漢方小説』から14年。「院内カフェ」は病院にありながら、治療の場ではなく、出入りする人びとがさまざまな思いをかかえて一息つける大事な場所だ。人生の困難がいや応なくおしよせる、ふた組の中年夫婦のこころと身体と病をえがく長編小説。
内容説明
「ここのコーヒーはカラダにいい」と繰り返す男や、態度の大きい白衣の男が常連客。その店で働く亮子は売れない作家でもある。夫との子どもは望むけれど、治療する気にはなれない。病院内カフェを舞台にふた組の中年夫婦のこころと身体と病を描く長編小説。
著者等紹介
中島たい子[ナカジマタイコ]
1969年東京都生まれ。多摩美術大学卒業。放送作家、脚本家を経て、2004年『漢方小説』で第28回すばる文学賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
1 ~ 2件/全2件
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ちょろこ
135
涙と温かさで満たされる一冊。先日、院内カフェで一日中過ごした。老夫婦、千羽鶴を折る女性、母娘と様々な方たちを眺めては、彼らが今抱えているものを勝手に想像し胸が痛んだことを思い出す。痛みも悩みも決して同じ分量を分かち合うことはできない。登場人物誰もが葛藤と気づきを得てたどり着いた場所に涙せずにはいられなかった。大切なことは全てここで学んだ、そんな姿と予想外の優しさ溢れるラストに涙と温かさが満ちる。何もかもを忘れてただ目の前の時間を楽しむ、そんな止まり木の場と時間の必要性を感じた、どこまでも心に優しい物語。2022/11/29
nico🐬波待ち中
127
病院内に併設するカフェを舞台に、患者、介護する人、病院スタッフ等々、総合病院を利用する様々な立場の人間模様を垣間見る連作短編集。病院の中にあるけれど、そこは誰もが気軽に利用できる憩いの場。中立的な立場で全ての「客」に接する貴重な場でもある。特に、両親と夫の介護に翻弄される朝子の話は身につまされた。私も他人事ではない。ラストで朝子が感じたように、上手く割りきれればいいのだけれど。カフェでゆったり過ごす一時が救いとなり、病院を利用する人に笑顔をもたらす。今まで敷居が高いと思っていた総合病院が身近に感じられた。2020/02/13
ふう
109
中島たい子さん3作目。書店でじっくり見て買っているからか、3作ともわたしの体質に合っていました。院内カフェ。西洋医学の病院内にあるカフェですが、その雰囲気はどことなく漢方的。薬ではなく気持ちのありようが体にも影響を及ぼしているのでしょう。ここのコーヒーは体にいい!と信じている男性。わかります。わたしだって、病院内で出されるものは少なくとも体に悪いはずはない、と思っていますから。登場するどの人も重いものを抱えていますが、そこは院内カフェ。少しの間だけでもここで心を軽くしてくださいと、やさしさが沁みてきます。2019/03/31
やも
94
病院内にあるカフェに集う人々の連作短編集。店員さん、その旦那さん、お客の夫婦、ゲジデントと呼ばれるお医者さん、患者さん。常連さんもいれば、たまに来るお客さんもいたりと様々だ。共通してたのは、皆中年で、自分だったり身内だったり、病気が身近にあること。病気になると身体も心も変わっていってしまう。変わっていく事への付き合い方を誰もが模索している。守ってあげるとか、貴方がいなきゃ駄目なんて鎖はいらない。ただの自分とただの君で、ただ気持ちに寄り添いあえたら、そして一緒に笑えたらそれでいい。★42022/07/21
エドワード
71
確かに、ここ十年程で病院はガラリと変わった。以前骨折で入院した頃、食堂も売店も地下の狭い一角にちょろんとあったが、今は、焼き立てパン屋、オシャレなカフェ、キッズスペースにコンビニまである。まさに隔世の感あり。その院内カフェを舞台とした二組の夫婦の物語。カフェは病院の中にある俗世界、という表現が的確だ。病人も見舞客も私服の看護師も混じってお茶している。深刻な話も軽く話せる。院内カフェを発明?した人は天才だとマジで思う。中江有里さんが解説で語る<サンクチュアリ>という表現が上手い。院内ワインバーは、無いな。2018/10/25