出版社内容情報
【文学/日本文学小説】わずかな希望にすがりつき、治療を求める末期がん患者と、効果のない治療で患者を苦しめたくないと悩む若き外科医。現役の医師でもある著者が「悪い医者とは?」をテーマに真摯に取り組み、第3回日本医療小説大賞を受賞した感動の医療長編。
久坂部 羊[クサカベ ヨウ]
内容説明
余命宣告された52歳の末期がん患者は、「もう治療法がない」と告げた若き外科医を恨み、セカンドオピニオン、新たな抗がん剤、免疫細胞療法、ホスピスへと流浪する。2人に1人ががんになる時代、「悪い医者」とは何かを問う、第3回日本医療小説大賞受賞の衝撃作。
著者等紹介
久坂部羊[クサカベヨウ]
1955年大阪府生まれ。医師、大阪大学医学部卒。二十代で同人誌「VIKING」に参加。外務省の医務官として9年間海外で勤務した後、高齢者を対象とした在宅訪問診療に従事。2003年、老人の麻痺した四肢を切り落とす医師が登場する『廃用身』で作家デビュー。2014年、『悪医』で第3回日本医療小説大賞受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
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TERU’S本棚
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
みも
138
癌医療という極めてセンシティブな問題を真正面から取り上げる。それは医師作家としての義務意識から生じたテーマであろうか。末期癌を宣告する医師と宣告される患者。二人を交互に描く手法で、生々しい激烈な闘病記録を織り込みながら、与える者と受容する者との対比を際立たせる。そして二人が苦悩と省察を経て心を変転させる過程を描き、それぞれの人間の死生観をも顕現させる。癌…その発病は決して他人事ではない。自分がもし余命宣告を受けたら、僕はその病とどのように対峙し、どのように選択し、そして死に向き合えるのかと考えさせられた。2025/03/18
ゆいまある
126
医療小説大賞受賞作ということで初読み。予想に反してめちゃいい話だったし、最近読んだ医療小説の中では断トツ。主人公は30代のエリート外科医。50代の末期癌患者に、これ以上抗がん剤を使っても寿命を縮めるだけだから、自分の好きなことをしてくださいと言ったところ、患者から「俺に死ねと言うのか」とキレられる。どう言えば良かったのかと苦悩する医師。治してくれる医者を求め、限界まで闘い続ける患者。二人の埋まらない距離が最後に近づく。贅沢な暮らしをしていても真面目に悩んでる医者の描写が凄くいい。そうなのよ。医者も辛いよ。2021/10/24
miww
108
「だから、もう治療法がないのです。‥あとは好きなことをして、時間を有意義に使ってください」「先生は、私に死ねと言うんですか」。命を縮める治療は出来ず患者にどう伝えればいいのか悩む森川医師と、最期まで死ぬほど苦しい治療でも‥と望みを捨てない小仲、両者の立場で描かれる。自分は苦しい治療はせず緩和ケアを望んでいるが、ガン告知や余命宣告をされた人のほんとうの気持ちはわからない。極端な言動と思える小仲を始めは理解出来なかったが彼の最期までの姿は胸に迫った。どの選択をするか「有意義な時間」は人によって違う。良書です。2017/10/21
あも
101
現役医師である著者は医療に対して常にシニカルなリアリスト。特に本書は創作ではなく現実にしか思えない。患者のQOLの為治療を打ち切りたい誠実な医師と末期がんを宣告されても生にしがみつく中年男性の2人を交互に描く。ある段階を超えると治療は逆に余命を縮める。なるほど、それは真理なのだろう。でも、死ねない死にたくない。半年、病院で苦しむより好きなことをして過ごせ…そんなに簡単に切替えられるように人間はできていない。患者の苦しみが伝わり過ぎてお腹がモヤモヤと痛くなる程だった。凄く良い本だと思うが読み返したくはない。2018/06/27
アッシュ姉
91
久坂部さん11冊目。日本医療小説大賞受賞も納得の良作だった。末期がんによる余命宣告。これ以上の治療は効果が望めず、むしろ寿命を縮めることになるので治療は止めて、残りの時間を有意義に過ごすよう告げる医師。まだ試してない治療法があるはずだと諦めきれず、たとえ激しい副作用があろうとも治療を続けることにこだわる患者。どちらの言い分も説得力をもって伝わってくる。自分だったら辛い延命治療はしたくないが、実際に直面したらどうなるか分からないし、家族がもしそうなったら、どんな手段でも試さないと気が済まないだろう。続く➡2017/09/21