出版社内容情報
【文学/日本文学小説】書籍編集者の鳴木戸定。彼女は幼い頃、紀行作家の父と行った旅先で特異な体験をする。不器用に生きる定はある日、自分を取り巻く世界の素晴らしさに気づき、溢れ出す熱い思いを止めることができなかった。第1回河合隼雄物語賞受賞作。
内容説明
暗闇での福笑いを唯一の趣味とする編集者の鳴木戸定。愛情も友情も知らず不器用に生きる彼女は、愛を語る盲目の男性や、必死に自分を表現するレスラーとの触れ合いの中で、自分を包み込む愛すべき世界に気づいていく。第1回河合隼雄物語賞受賞作。
著者等紹介
西加奈子[ニシカナコ]
1977年テヘラン生まれ。関西大学法学部卒。2004年『あおい』でデビュー。05年『さくら』が25万部をこえるベストセラーとなる。07年『通天閣』で第24回織田作之助賞、13年『ふくわらい』で第1回河合隼雄物語賞、15年『サラバ!』で第152回直木賞受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
576
これは確かに「物語」ではある。しかも、既存の小説の枠を超えた。登場する人物設定は主人公の定をはじめ、冒険紀行作家の父親、プロレスラーの廃尊、白杖の武智次郎など一般の常識を逸脱している。そして、中でも最も規格外なのが定である。そもそも、定は物語の着想である「ふくわらい」に執着し続けるのであり、他者との関係性を自らの想像力の内にある「ふくわらい」を通してしか結びえない。この作品の持つ発想の物語性は首肯できるが、結末はいささか空中分解気味の感もまた免れない。 2021/03/10
抹茶モナカ
296
ゲシュタルト崩壊、ふくわらい。読み方はいろいろあるだろうけど、読み物として面白かった。プロレスラー守口廃尊が良かっだけど、文体のせいか、致命的に軽さが登場人物の心の様子を描いても出てしまう。西加奈子の小説には軽さが良くも悪くもあって、登場人物の痛みやメッセージも通俗に感じられるのが残念。小説の後半の展開は、良くわからなかったです。2017/01/06
さてさて
197
『福笑いが、この世で一番面白い遊びだと思っていた』。幼き日に知った「ふくわらい」にすっかり囚われの身となった主人公の定。この作品では大人になってもそんな「ふくわらい」の感覚で人を見続けていく定の日常が描かれていました。エロとグロが交互に波打つように押し寄せてくるこの作品。そんな作品に西加奈子さんの『プロレス』愛を見るこの作品。キョーレツな物語はキョーレツに終わらなければならない、そんな物語の運命を感じさせもする、好き嫌いが極端に分かれそうな、そういう意味でも極めて西加奈子さんらしい、かっ飛んだ物語でした。2025/04/04
エドワード
192
文字が集まって言葉が出来る。それが文章だ。だから文章は「福笑い」に似ている。風変わりな父親に育てられた鳴木戸定は、少女時代から大人の今まで「福笑い」に夢中の女性。今は、風変わりな作家たちの文章を<作品>に仕上げる編集者だ。ひきこもり、プロレスラー、老人など癖があり過ぎる作家たち相手に悪戦苦闘する前半から一転、日伊ハーフの白杖の男性・武智次郎との出会い、乳母の悦子や後輩のしずくとの心の交流など、定の優しさやひたむきさが洪水のように押し寄せる後半が胸を打つ。言葉のひとつひとつにまで意味が深い物語だ。2015/10/02
hit4papa
190
他人の顔を妄想でふくわらいする癖をもつ女子の物語です。主人公は有能な編集者ですが、周囲を氷つかせるほどのエキセントリックな性格という設定。そのまわりに集う作家さんや、主人公に想いを寄せる男性、亡き父等、奇人変人のオンパレードです(特に、プロレスラ兼作家の守口廃尊が破壊力抜群)。登場人物たちの交わす会話から、主人公のチャーミングさが浮彫になってきます。クスクスぐらいの笑いあり(そもそも、主人公の名前 鳴木戸定(なるきどさだ)の由来が...)。著者の作品では、本作品のようなちょいオモロイ系が良いですね。2018/11/22