内容説明
明治の日本で、欧米文化を地方に配る配電盤の役割を一手に引き受けた東京。中心は東大をもつ本郷だった。夏目漱石の「三四郎」をテキストにして、東京の成立の玄妙さを考える。登場人場に「日本は亡びるね」といわせた漱石に、深い共感を寄せる。執筆したのはバブルの崩壊が進行中の時代で、筆者も同じことを考えていたのだろう。ラストの三四郎池で、釣りの少年との会話が印象に残る。
目次
鴨がヒナを連れて
縄文から弥生へ
加賀屋敷
“古九谷”と簪
水道とクスノキ
見返り坂
薮下の道
根津権現
郁文館
無縁坂〔ほか〕
著者等紹介
司馬遼太郎[シバリョウタロウ]
1923年、大阪府生まれ。大阪外事専門学校(現・大阪大学外国語学部)蒙古科卒業。60年、『梟の城』で直木賞受賞。75年、芸術院恩賜賞受賞。93年、文化勲章受章。96年、死去。主な作品に『竜馬がゆく』、『国盗り物語』(菊池寛賞)、『世に棲む日日』(吉川英治文学賞)、『ひとびとの跫音』(読売文学賞)、『韃靼疾風録』(大佛次郎賞)などがある(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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molysk
58
加賀藩邸の広大な敷地が明治維新の後に東京大学となり、西洋文明を地方へ発信する配電盤となった。お雇い外国人が住む街には、志に燃える若者たちが集まってくる。その中に正岡子規や夏目漱石、森鴎外らがいた。台地を下れば坪内逍遥や樋口一葉が過ごした跡が残る。本郷は文豪ゆかりのまちであり、作品の舞台であった。鴎外は「団子坂」で若い男女の駆け引きを描く。二人の会話で引用されるのが漱石の「三四郎」である。熊本から上京した青年の三四郎が、都会的な蠱惑の女性の美禰子を見初めるのが三四郎池のほとりで、今も東大構内で水をたたえる。2023/10/29
Book & Travel
54
【司馬遼太郎の八月@真夏の街道まつり2019】東京・本郷とかなりピンポイントな紀行。東大が置かれ、明治期には西洋文化を受け地方へ配る配電盤の役割を果たした地域であり、漱石や鴎外ら文豪ゆかりの地でもある。司馬さんは漱石を中心に作中に描かれる場所を辿りつつ、本郷の輪郭に迫っていく。もちろん歴史はそれだけに留まらず、江戸期には加賀藩邸と水戸藩邸が置かれ、近代を曳きよせた近藤重蔵や最上徳内らのゆかりの地でもあり、話は尽きない。モース、春日局、坪内逍遙、樋口一葉、朱舜水…。歴史を感じながらゆっくり廻りたい土地だ。2019/07/30
Toshi
24
「街道をゆく」では、これまでも自分が歩いたり、訪ねたい場所を、司馬遼太郎さんと歩き、思考的道草を楽しんできた。本書は最近読み友さん達が立て続けに読んでいたのと、今の勤め先が本郷であることから手に取った。「本郷もかねやすまでは江戸の内」と言われたかねやすも、ビルは未だ健在だが、店はシャッターが降りたまま。本郷弓町の大クスは、その雄大な姿を残しているが、楠亭は、イタリアンレストランに代わっている。順天堂大学や東大医学部があるからか、医療関連の企業が多く、今ではメディカルヒルズ本郷とも呼ばれているらしい。2021/11/28
金吾
22
○文豪や江戸時代の名士を思い浮かべ古きよき時代を想像しながら散歩しているように感じます。本郷は身近な町でしたので情景が思い浮かべやすく面白かったです。2021/12/25
ロマンチッカーnao
21
夏目漱石、森鴎外、樋口一葉、寺田寅彦など明治の文豪たちがあるきまわる。それから、三四郎、雁など名作のゆかりの土地を歩きながら司馬さんが自由に語る。これを一緒に旅して直接聞けたら幸せだったでしょうね。本書を持って、出てくる場所を歩きたいわぁ。2022/04/04