出版社内容情報
被災地支援から東北の地域社会に入って制作する芸大生、タコツボ無人販売で作品を売る陶芸家、ウクレレ保存化にとりくむ工芸家……。コロナ禍の時代にもひびく、芸術が開く新たな社会性についての注目の評論。
内容説明
東北の被災地に住みついた芸大生、タコツボ無人販売所を開く陶芸家、廃屋の記憶をウクレレとして保存する工芸家…。生きる技法としての芸術のもつ可能性を、臨床哲学者が論じる。コロナ禍の時代にもひびく、芸術が開く新たな社会性についての注目の評論。
目次
1 「社会」の手前で
2 巻き込み―小森はるか/瀬尾夏美の模索
3 強度―志賀理江子の“業”
4 アートレス?―川俣正の仕事を参照軸に
5 ゆるい途―もう一つの
6 “社会的なもの”
7 “はぐれ”というスタンス
8 点描
著者等紹介
鷲田清一[ワシダキヨカズ]
1949年京都府生まれ。哲学者。せんだいメディアテーク館長、サントリー文化財団副理事長。専門は臨床哲学・倫理学。京都大学大学院文学研究科博士課程修了。大阪大学総長、京都市立芸術大学理事長・学長を歴任。『分散する理性』『モードの迷宮』でサントリー学芸賞、『「聴く」ことの力』で桑原武夫学芸賞、『「ぐずぐず」の理由』で読売文学賞を受賞。著書多数(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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たまきら
27
作らずにはいられない衝動。自分のために。そして、周囲の人を喜ばすために。私たちの中の感情を呼び起こす様々な芸術。東日本大震災とアートをせんだいメディアテーク館長がまとめた、とてもソウルフルな一冊です。コロナ禍のいま読むと、アートがまた違う役目を負いつつあることを認識します。結局発信したいという強い思いが、自分を、そして表現の道を進めていくのですから…。2020/12/28
たっきー
8
今回の作品は読了後、自分のなかにまだ落ちきっていない感じがした。面白かったのが、タコツボ無人販売で作品を売る陶芸家のエピソード。著者は職人とはストイックなものだと先入観をもっていたのに、その陶芸家は「明日にでもやめられるならやめたい」と言い切るところ。2021/02/23
ひでお
6
アートと社会との関係について、実際のアーティストを例に挙げて論じた作品。採り上げられたアーティストは、アーティストとしてではなく地域に溶け込んで内側から発信する人もいれは、地域の人との制作過程を重要視するひともいます。いずれもアーティストとしての枠にはまらず、意味がわからなくても一体感を得ているようです。そこが「素手」なのかも。ただ、その作品か地域に何を生み出したのかについて、アーティストの自己満足ではない何があるのかについては、もう少し考えてみたいと思います。2023/06/26
トマス
2
震災後の東北と向き合いつつアートを考えた、2016年の著作の文庫版。アートに対して理論武装せず、素手で世界と対峙する「アート未満」の活動にアートと社会の関わりの根源を見る。同時代の社会システムへの違和を表現できるアートは、この先さらに重要になると思う。2020/11/15