出版社内容情報
戦前の日本で、貧しさゆえに外国の娼館に売られた少女たちがいた。国境に売られ、狂死したキミ。南方で財をなし、壮絶な自殺を遂げたヨシ。綿密な取材と膨大な資料を元に、ふたりの"からゆきさん" の人生を綴った傑作ノンフィクションが復刊。
内容説明
16歳で朝鮮に売られ、狂死したキミ。東南アジアで財をなし、壮絶な自殺を遂げたヨシ。ふるさとを思い、売られていった女たちが、異国の地で見た夢は何だったのか。綿密な取材と膨大な資料をもとに、「からゆきさん」の軌跡を辿った名作が、新装版で復刊。
目次
ふるさとを出る娘たち(玄界灘を越えて;密航婦たち;ふるさとの血汐)
国の夜あけと村びと(おろしや女郎衆;シベリアゆき;異人の子と上海)
鎖の海(唐天竺をゆく;海をわたる吉原;戦場の群れ)
慟哭の土(おキミと朝鮮鉄道;大連悲歌;荒野の嵐)
おくにことば(おヨシと日の丸;天草灘)
著者等紹介
森崎和江[モリサキカズエ]
1927年朝鮮慶尚北道大邱府(現韓国大邱市)生まれ。詩人、作家。17歳で福岡県立女子専門学校(現福岡女子大学)に入学するまで、植民地時代の朝鮮で過ごす。丸山豊らの詩誌「母音」に参加し、58年に谷川雁、上野英信らと雑誌「サークル村」を創刊。59年には雑誌「無名通信」を刊行。61年に初の単行本『まっくら』を出版(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
がらくたどん
64
森崎氏を偲んで。相手のもとに足を運び場を自分が巻き込まれるところまで共有しながら話を聴くという聞き書きの体温感を残しながら、文献調査を堅実に盛り込んで研究書に近いノンフィクションに仕上げた力作。売られた先の朝鮮で余儀なくされた売春で精神を病んだキミ・「からゆき」OGとしての売春業を元手に事業を拡げて財を成し燃え尽きたように自死したヨシの人生から、貧しい村娘の暖かく放埓な気質が植民地政策の方や隷属民の不満の捌け口に、方や無策で入植させた者達の受け皿に利用されていく過程が驚くほどの距離の近さで描き出される。2022/06/30
やいっち
59
ノンフィクション作家の森崎和江さんが2022年6月に急逝。ということで、代表作『からゆきさん』(朝日文庫)が緊急重版となったもの。原書は1980年に朝日新聞社より刊。だから吾輩も本書に気付いたようだ。2023/06/13
ネギっ子gen
55
森崎和江さんを偲んで――。「から(唐)ゆきさん」は、戦前の九州で、貧しさゆえに外国の娼館に売られた少女たちのこと。彼女たちの存在は、「戦前日本の恥部」として一般に隠されていた。本書は、関係者への綿密な聞き取り調査、当時の新聞記事など膨大な資料をもとに、からゆきさんの真実に迫る記念碑的ルポルタージュ。「母は、“からゆき”だったのよ。売られた女よ。あなた、売られるということ、少しはわかった? 一代ですまないことなのよ。売られた女に溜まったものは、その子の代では払いのけられそうもないわよ、どこまでいっても」。⇒2022/06/28
Shoji
38
ショッキングな副題通りの本です。天草は近世の頃も明治にはいっても、堕胎や殺児がなかったという。日本の村むらはどこでもそのような間引きをして人口を整えてきた。でもここはその風習がなかったという。そのため人口がふえすぎて、他国への出稼ぎ無しには暮らせぬ様になった、という。挙句、少女は何も知らぬまま売られて行く。「いんばいになるか、死をえらぶか、といわれたら、死ぬんだった。うちは知らんだったとよ、売られるということが、どげなことか」と少女に言わしめる。何たることよ。感想なんてない。ただ絶句した。2022/04/24
こうすけ
30
明治、大正時代に海を越えた売春婦、からゆきさんについてのルポルタージュ。冒頭のおキミさんの話から、作者の視点を全面に押し出したものになるかと思いきや、新聞記事をもとに客観情報もふんだんに盛り込まれ、ドキュメントとしても超一級。性産業が、性が、地域によって当時どのようにとらえられていたのかまで掘り下げるので、納得感が高い。おキミさんが老いてなお抱えるトラウマはなんともおそろしい。2024/05/21