内容説明
九州・熊本の地で精力的に創作活動を続ける著者が、心をこめ綴った名文集。水俣での日々の暮らしの中だけでなく、天草や沖縄の島々、日向などへの旅からも題材を選び、田園の移り変わり、日本人の感性や生き方を繊細なタッチで描いた50編。
目次
あやとり祭文
気配たちの賑わい
夢の中の文字
自我と神との間
石の想い
時間の甕の中から
路地裏から
愚かなふり
痛い挨拶
時計なしに生きる
夢の中のノート
ビキニ模様の天気
生命の賑わいとかなしみ
作兵衛さんの会
死んだ先生に電話をかける
昏れてゆく風
魚たちの夢を夢みること
川本輝夫さん上告についての請願書
用語の持つ残虐性
陽のかなしみ
黒い神女たちの虹〔ほか〕
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
algon
12
著者59歳、充実の時代の高漂浪(たかざれき)の心模様を誠実な筆致で著わした力作だった。創作姿勢、生育環境、高群逸枝系、水俣訴訟系、南西諸島系の5章から成る中短編50篇430pのエッセイ集。各章頭のエッセイは中編で章を代表する力作。石牟礼道子というほんとうに理解し難い作家をいろんな本を読んで追ってきたけれど、この本は時間経過、思考経路も含めて人間として立ち上がった理解しやすい本なのではないか、という気がしている。近代に対峙してどんどん時を遡り古代的心持で現代を見渡した作家かと。それにしても見事な文章だった。2022/11/21
勝浩1958
7
石牟礼道子女史の言葉には、きらきら輝く自然の持つ素晴らしさを改めて気づかせてくれる温かみがあります。そして、その自然や庶民の精神や生活を破壊する人々や事象に対しては、言葉は、鋭い批判と憤りに変わります。それは次のような文に表れています。「やっぱりおじさんたちが教えてくれるんですよ。(中略)漁の話をするときの表情というのは、この世の至福に逢ったような、法悦の表情を浮かべて話すんですね。それはいったい、いかなる世界であったのか。日本の庶民は、近代に入る前は、そういう至福の世界をたしかに持っていた」2014/07/19