内容説明
本書は大きく二つの部分に分かれている。ひとつは著者の数奇な運命を描いた体験記、もうひとつはベルリン・フィル団員としてのベルリン・フィル、あるいはオーケストラ一般に関する考察である。後者に関しては、とくにカラヤンとベルリン・フィルとの抗争の旗頭であった人物が、苦々しい体験の直後に書いたものということになる。
目次
わが町ベルリンとの再会―1955
ベルリンでの子ども時代―1938まで
満州での十一年―1939~49
イスラエルでの再出発―1949~56
中継地・アメリカ―1956~61
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団―1968~94
そしてふたたび、イスラエルへ―1967~90
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
蘭奢待
16
著者は亡命ユダヤ人音楽家。ナチによる弾圧を受け、八方手をつくし、ようやく国外へ脱出。満州国ハルビンで艱難辛苦の生活を送り、戦後苦労してイスラエルから米国へと渡る。ようやく入団したオーケストラのドイツへの旅においてベルリンフィルに採用され、ドイツへと戻るがカラヤンの下で一波乱。公務員であるベルリンフィル管弦楽団と、私的機関のベルリンフィルハーモニカ。メンバーは同一であるものの、活動は分けて考えなければならない。この本では意外な事実を知ることができて満足。2018/08/26
ミュンヘン
4
元ベルリン・フィルの方が極東にまで来ていたというのがショッキングで読んだ。ベルリンでの子ども時代、中国・ハルビンへの亡命、イスラエルでの再出発、そして再び故郷のオーケストラへ――。氏が回想する戦前、戦中、そして戦後の満州の状況が大変興味深い。2013/04/23
くまこ
4
ハルビン交響楽団、イスラエル・フィル、セントルイス・オーケストラ、ベルリン・フィル。著者の音楽家としての経歴が、そのまま第二次世界大戦をはさむ現代史を語っている。カラヤンについての記述が多かったが、朝比奈隆や杉原千畝らの名前も登場し、とても興味深かった。戦争、人種問題、民族意識という重いテーマにふれつつ、著者は静かに半生を回顧している。温厚な人柄が丁寧な語り口に表れていて、深い感銘を受けた。2011/12/21
はやしま
3
元ベルリン・フィル第一ヴァイオリン首席の波乱万丈の人生体験とオーケストラでの活動についての自伝。ベルリン、中国、イスラエル、米国そしてベルリンへ帰る半生はまさにディアスポラ。ユダヤ人について殊更には書いてないが、"任務としてのユダヤ人"体験の記述はある。後段のオケとカラヤンとの確執の記述に前段の印象が上書きされてしまった。余程壮絶だったのだろう。著者視点で事態を理解したが、訳者あとがきの公平な視点を読んでバイアスがとれた。ユダヤ関連の仕事をしている今書かれたら本の内容がまた違ったバランスになったかも。2014/01/18
Cyan
2
第二次大戦を、「故郷」ドイツから逃れることによって生き延びたユダヤ人音楽家の回顧録。前半はベルリンから日本統治下の中国へ逃れ、中国からイスラエルを経てアメリカへと渡り、やがてベルリンにたどり着くまでのお話。後半はベルリンフィルでの話、というかカラヤンの悪口(笑)2018/04/21