出版社内容情報
裁判官粛清人事=青法協問題(ブルー・パージ)と原発差止め訴訟の二つを軸に、戦後の裁判所の歴史を内側から明らかにする。正義と保身のあいだに揺れる生身の裁判官の人間ドラマ。
内容説明
歪んだ裁判官人事行政のツケで、首相私邸への偽電話事件、女性被告人との情交、当事者からの収賄といった不祥事が噴出する。津崎守は、最高裁調査官、東京地裁の裁判長と順調に出世の階段を上がるが、突然、「招かれざる被告人」が姿を現す。やがて能登の日本海原発二号機訴訟が金沢地裁で結審し、村木健吾裁判長が「世紀の判決」を言い渡す―。
著者等紹介
黒木亮[クロキリョウ]
1957年北海道生まれ。早稲田大学法学部卒、カイロ・アメリカン大学大学院(中東研究科)修士。大手都市銀行、証券会社、総合商社に二十三年あまり勤務し、国際協調融資、プロジェクト・ファイナンスなどを手掛ける。2000年『トップ・レフト』で作家デビュー。英国在住(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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まーくん
51
70’年代任官の裁判官に焦点をあて、戦後の訴訟案件を辿りながら司法の世界を描く後編。退官まで裁判の現場に誠実に取組み続けた裁判官と事務総局勤務など司法官僚の道を主に歩んだ同期裁判官という架空の二人を中心に物語は展開。しかし、上司で人事局長などの立場で青法協弾圧や後に司法改革に力を振るった弓削晃太郎(矢口洪一最高裁長官がモデル?)が実在の人物だけに存在感がある。原発訴訟の技術的側面についても良く取材している。裁判官も(著者も)大変だなと感じた。それにしても、この内容で産経新聞連載とは驚き。ちょっと見直した。2019/02/26
おさむ
42
地方支部まわりとなった青年法律家協会出身の村木と、最高裁長官に上り詰めた津崎。そして矢口洪一氏がモデルの弓削。この3人を軸に話は展開していく。裁判官の不祥事や出世を巡るえげつない策略などよく取材してます。どこまでがフィクションなのかが素人には判別つきませんが、大下英治の小説に近いテイストでした。解説にもありますが、これが、産経新聞の連載小説だったというのが一番の驚きです笑。「絶望の裁判所」「裁判の非情と人情」という2冊の新書と合わせて三部作として読むのが、裁判官志望者には良いかもしれません。2017/09/13
ヤギ郎
15
事実に忠実な裁判官物語。見知った名前がちらほらと登場。状況から「あいつのことか!」と思う場面もあった。原発訴訟も終盤戦。東日本大震災当日を物語の幕引きにしたところが,この物語の皮肉なのではないだろうか。物語の中心人物である弓削晃太郎は矢口洪一長官をモデルにしているらしい。(解説が詳しい。)フィクションのところもあるけれど,戦後日本の司法界をみつめる興味深い一冊である。山本裕司『最高裁物語』と合わせて読みたい。2019/12/20
Hiro
14
3人の体制側と反体制側の裁判官を通じて、ここ数十年の様々な判決を解きほぐしていく。さながら法曹のフォレスト・ガンプ。凄い作品▼やたら政治寄り、行政寄り、最高裁寄りに映る頼りない日本の判例・判決が、法学部で学んだ自分でもああ、こういう構造だったのか、という発見が随所に▼この20年実施されてきた司法制度改革も捉え所が無かったけど、裁判所視点のロジックだと凄くわかりやすい事を理解。2025/01/28
わたなべよしお
12
という事で、なかなか面白かった。「上」の時にも書いたと思うが、戦後の司法界の流れを知るための入門書としては十分な内容だと思う。確かに、原発訴訟に偏り過ぎていて、刑事裁判の記述が少ないとは感じる。裁判員制度に関する裁判官内部の暗闘にもページを割いてほしかつた。2016/02/20