出版社内容情報
「君のような雑誌社は片っぱしからぶっ潰すぞ」――。新評論社長・葦沢悠平とその家族の苦難を描き、戦中から戦後の言論の裏面史を暴いた社会小説の名作。
内容説明
「君のような雑誌社は片っぱしからぶっ潰すぞ」―。日米開戦前夜から戦後の日本国憲法施行に至るまでを時代背景に、出版社・新評論社社長の葦沢悠平とその家族の苦難を中心に描いた社会小説の名作。上巻では、四一年九月第三次近衛内閣崩壊直前から横浜事件を核に、一連の言論弾圧とそれに振り回される人々の受難を活写する。
著者等紹介
石川達三[イシカワタツゾウ]
1905‐85年。秋田県生まれ。小説家。早稲田大学文学部英文科中退。1935年、『蒼氓』により第一回芥川賞を受賞。主に社会問題をテーマとし、時代の波にもまれる人間の生き方を如実に描いた(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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ソーダポップ
16
小説の中で、情報将校はこう言って恫喝する。「一番大事なのは…国家の立場だ。国家の立場を無視して自分の雑誌の立場ばかりを考えているからこそ、こういう自由主義の雑誌を作るんだ。君のような雑誌社は片っ端から潰すぞ」そして、かれの言動を通じて、戦時下における言論統制の実態が見事に再現されている。それは、一般的な恫喝ではなく、陸軍、海軍、出版社、新聞社、大学、民間右翼、無産政党、文化人など、さまざまな組織、人々の思惑、正義感、打算、懐柔、迎合が入り乱れる複雑極まる世界だった。当時の世相をよく反映した上巻でした。2025/05/02
あいうえお
1
【ネタバレあり!】綺麗な文章で、重厚に書いてあるのに読みやすいという、不思議な本だった。ともすれば、誰も彼もが戦争に希望を抱いていたかのように描かれがちな太平洋戦争を、一人ひとりの心情から必ずしもそうではなかったと描き出していて、新たな視点を得たように思う。現実的な歴史小説に終始するのかと思っていたら、因縁の相手との再会というフックまであり、驚いた。しかも、憎んでいるようでその実惹かれている、という。素敵な本です。2017/09/12
ぼび
1
5/52017/01/19
Yakmy
1
とにかく時代の空気感が今からは想像できない。言論が封じられ、一方で軍部は腐敗していく。よどんだ曇り空が見えるかのようだった。悠三の決意は、尊いものだと思う。それを貫く気概は、まだ自由主義が許された時代、教養を高め、世界を見つめたことによる結果だろう。もちろん、同じ考えの人がいなかったわけではない。時代の流れはとにかくすさまじい。その中では、悠三といえども、一本の葦でしかない。どれだけあらがおうと、自らの思想をとどめることで精一杯のように感じる。あきらめにも似た態度だが、胸に秘めた思いが伝わる。 。2015/09/04
FumiSUN
0
☆92015/11/25