内容説明
昭和十年、東京・芝三光町あたり―。製薬会社勤めでつつましく暮らす水田仙吉一家を、軍需景気で羽振りのいい鋳物工場社長の門倉修三が迎えた。一対のこま犬のような二人の友情を軸に、ふた家族六人と、お妾さんに子供、山師仲間と謎の親戚らが織り成す人間模様。戦争間近の情景と、ユーモアあるセリフ、秘めたる性の表現を、十八歳の一人娘さと子の目線で描ききる。高視聴率を記録した、向田邦子最後の長編ドラマ。関連資料付。
著者等紹介
向田邦子[ムコウダクニコ]
1929‐81年。東京生まれ。実践女子専門学校卒業後、映画雑誌記者を経て、脚本家として活躍。シナリオ作品に、『寺内貫太郎一家』『だいこんの花』『阿修羅のごとく』など。初エッセイ集『父の詫び状』で、作家としても人々を魅了。80年直木賞受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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ぐうぐう
15
ため息が出るほどにうまい! 仙吉と門倉の間に流れる友情、仙吉の妻・たみへの門倉の純真な愛、それを知りつつ人としての門倉を愛するたみと仙吉。この三人の、情で繋がれた不思議な関係を、向田邦子はユーモアたっぷりに、人間臭さを忘れることなくリアルに描いている。仙吉とたみの娘・さと子の視点で展開されていくことで、さと子の女性としての成長も描きながら、少しずつ戦争の影が濃くなっていくその足音も、物語に響かせる。向田邦子がその成熟期に生み出した、今読んでもまったく色褪せることのない、見事なまでのシナリオだ。2009/05/17
ムツモ
4
うまいなぁと随所で唸らされ、最後は涙ぐんでしまった。言葉にしない方がよい、しなくてよい様々なことってあるなぁ。自分がたみと同年代になったから分かる面白さ(娘はいないけど)。ありがとう向田さん。2017/02/12
玲
3
昭和は清いものしか受け入れないのだという偏見が打ち砕かれた。だからといってふしだらなものをよしとするわけではない。寧ろ、崇高なレベルの名付けがたい感情の交感がなされているのだ。現代の事象の多くは分かりやすいものに分類され名付けられている。それが悪だというわけではないけれど、名付けにくいものはこぼれ落ちてしまう。隙間を埋めるのが小説や文学の一存在意義かもしれない。2012/08/27
葛
1
著者、向田邦子 発行者、山口昭男 発行所、株式会社岩波書店 印刷、精興社 製本、中永製本 編集協力、烏兎沼佳代 ジャケットデザイン、桂川潤 写真提供、ままや 1987年6月大和書房から刊行 NHK総合テレビ ドラマ人間模様 1980年3月 1981年5月2017/12/23
りゃーん
1
どうしても観たいが観られないTVドラマを脚本を読んで渇き癒すのは山田太一「早春スケッチブック」以来だろう。昭和10年代の東京、勤め人の水田と社長の門倉は親友同士で家族ぐるみの付き合いがある。家族というのはフシギなもので、性がないと成り立たないが、性は家族でタブーとなる。しかも舞台は禁欲の戦中だが本作は女性が描くエロスに満ちている。まず水田と門倉のBL的友情、それに水田の妻たみへの門倉の秘めた想い、そして大人たちの濃い情愛を見つめる少女さと子の視点。東京にもあった「この世界の片隅で」もあの時の空は青空だった2017/11/24