内容説明
時代は昭和へと移る。金五郎は若松市会議員となり、すでに押しも押されもしない貫禄の親分である。しかし波止場の近代化の陰に、吉田親分との因縁の対立は徐々に深まる。マンと彫青師お京、金五郎をめぐる女たちもしのぎを削る。明治から昭和戦前に至る北九州若松を舞台に展開するロマンティシズム溢れる波乱万丈の物語。完結。
著者等紹介
火野葦平[ヒノアシヘイ]
1907‐60年。作家。福岡県若松市生まれ。早大文学部英文科中退。36年若松港沖仲士労働組合を結成、港湾労働者の闘争を指導。逮捕転向を経て、文学にもどる。38年「糞尿譚」で芥川賞受賞。徐州作戦に従軍し、「麦と兵隊」を発表。戦後に戦争協力者として追放を受けたが、50年に解除され、健筆をふるう(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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姉勤
34
明治から昭和初期にかけての徒手空拳から身を起こした同士の 夫婦の半生。出世とは自分の人生を犠牲にして、集う人々の人生を預かることと教えてくれる。港湾労働の機械化、効率化による人員整理に伴う一連のドラマは、現代にも通じるものがあるが、当時の人気(じんき)は敗戦、そしてバブル期以降完全に失われたような気もする。物語として冗長なものも感じられるが、あとがきを読めばそれに納得するものがあると思う。2021/05/07
くるた
4
上巻に続き、玉井金五郎と妻マンの人となりが素晴らしく、読み終わって晴々とした気持ちになりました。小説という形にした時にその魅力が十分に描かれているのは、息子である著者が両親を尊敬しているが故でしょう。解説を読むと、なぜこの2年後に著者が自殺してしまったのか、残念でなりません。若松時代、第二次世界大戦を生き抜いて、その経験を小説としてアウトプットする力まであった人物が、「ある漠然とした不安のために」死んでしまうとは。その人間臭い不安定さが、魅力のひとつなのかもしれませんが。他の作品も是非読みたい。2019/12/02
ラミウ
3
北九州市は今でも「修羅の町」という異名を持っているが、そのルーツが描かれていて、当時の街並みと今の街並みを頭の中で交差させながら読み、非常に面白かった。わずか100年足らず前の現実世界とはとても思えない「メンツ」の為に暴力が蔓延る街。しかしそんな世界で、義理人情を大切に人生を全うした主人公の、理不尽にグッと耐えて通す筋、生きざまはカッコよかった。生きることに命がけ。物語に高揚する気持ちの一方で、炭鉱で栄えた当時の賑わいが失われてることには、少し寂しさも感じた。2023/01/03
K.C.
3
今の北九州若松を舞台に繰り広げられた仲仕の義侠劇。226事件で幕を閉じる。政治、経済、任侠、仲仕、色街、娯楽が入り組んで、それなりに関係性を保ち、あるときは争い、裏切られ、脅し、手を組む。通底する心地よさ、潔さは何なんだろう。今はそうそう感じない感覚。2020/08/19
でろり~ん
3
快作。代表作とされること、なるほど、でした。作家が書かなければならない、と感じる題材を、書きあげた喜びが伝わってきました。21世紀の忖度社会とは正反対の、誰もが欲望むき出しに利己的だった時代は、たくさんの田舎町に有ったのだろうことは理解できます。皆、生きることに真剣だった。個人は時代を選べませんからね。中村哲氏の母親は、著者の妹、金五郎、マンの次女、秀子さんなことが、この下巻で判りました。金五郎さんの孫は、九州からアフガニスタンに場所を移して、やはり独力での戦いをしていたという事実。その風貌。リアルです。2020/02/20