出版社内容情報
幻想と現実,存在の肯定と否定,宮沢賢治の「世界」は外へ内へと転回しつづける.我々を永遠に魅了する数々の作品表現の深層に,その意識・身体・自我を探索し,近代を駆けぬけた人間賢治の軌跡を現代の思想として構築する.
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ハチアカデミー
14
りんごと黒い男、標本というキーワードから賢治の世界を探った一冊。「自我の羞恥」「焼身幻想」「存在の祭り」「地上の実践」という四つの観点から、賢治が作品とその生涯をかけて求めたものを明らかにする。その魅力のひとつとして「主体転換の並外れた自由さ」をあげている。銀河鉄道に乗り込む場面を例に、見ていたものの中に自分が入り込むことや、見ていた対象が語りの主体になることなどを取り上げ、その理由として自分を規定するものへの疑いが強かったとまとめる。他、再生を前提とする死、〈モネラ〉、倫理の徹底性など、読みどころ多し。2014/08/23
イボンヌ
9
改めて宮沢賢治を読み直そうとおもいます。2022/05/29
小鈴
7
再読。周りの評価は高いのだが、私自身はイマイチなのよ。それは論理構造とか論の展開にあるのではなく、開拓民で農家の祖母を通して、あの自力の凄味を知ってるからこそ、どうしても賢治は線が細すぎるんだよね。事例ならばドンファンの方が私にはピンとくる。これ言っちゃあおしまいなんだけど。2010/05/25
なおこっか
5
『銀河鉄道』を自己犠牲と喪失、『雨ニモマケズ』を清貧、と単純化して理解しようとしていた目を、大きく見開かされる思いだった。賢治の精神世界に深く寄り添う本書は、何度でも賢治の言葉と見比べながら読み直したいものになった。堅強な農民に成れぬ肉体は雨を恐れ、商家に生まれ育った魂は他者の目を恐れた。同時に美しく広がる自然を見、更に透明な存在を感じ、喪われた命とも再び出会えると願う。己を修羅と感じる彼が、命の祝祭の中に溶け込むように存在すること。『雨ニモマケズ』には賢治の願いの全てが詰まっていたのだ。2022/12/23
Happy Like a Honeybee
5
なぜ宮沢賢治の作品は古くならないのか?独身禁欲を通し、生殖と生計の営為に自身を委ねることなく創造を重ねた。教員時代ですら給与はレコード代、書籍代に散財し、生活費は親に依存。羅須地人協会の土地建物など経済援助を商家である、親に期待していたブルジョワ階級。 写真や作品では質素な生活しか想像できないが、ギャップも魅力の一つ。2015/10/30