出版社内容情報
イエスの隣人愛の思想がその死後ギリシア・ローマの哲学的言語によって教義化されていく過程で、新たな存在論が作り出された。個の個的存在性(かけがえのなさ)を指し示す概念を中心とするこの存在論が古代末期から中世初期に東地中海世界の激動のうちで形成された次第を、哲学・宗教・歴史を横断し伸びやかな筆致で描き出す。(解説=山本芳久)
内容説明
イエスの隣人愛の教えは、彼の死後ギリシア・ローマの哲学言語によって体系化教義化されていく。その過程で生じた、神と人、普遍と個の関係をめぐる論争のなかから、個の個的存在性を指し示す概念を中心とする新たな存在論が現れた。個の「かけがえのなさ」「尊厳」へと連なる、この存在論が古代末期から中世初期に東地中海世界の激動のなかで形成された次第を、哲学・宗教・歴史を横断し伸びやかな筆致で描き出す。
目次
序章 カテゴリー
第1章 いくつかの日付
第2章 ヒュポスタシスとペルソナ
第3章 カルケドン公会議―ヨーロッパ思想の大いなる転換点
第4章 キリスト教的な存在概念の成熟
第5章 個の概念・個の思想
著者等紹介
坂口ふみ[サカグチフミ]
1933年生まれ、1957年東京大学教養学部ドイツ科卒。同大学院人文科学研究科比較文学比較文化修士課程修了。Dr.phil.(M¨unchen)東京大学助教授、東北大学教授、清泉女子大学教授を歴任。東北大学名誉教授(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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syaori
75
4~6世紀のキリスト教教義確立までの話。イエスが受苦により人の罪を贖った一回限りの奇跡・生の理論化は、普遍から個、一から多を認識するギリシア哲学の枠組みを受継ぎながらも、個を最も尊貴なもの・本質とする転換を起したこと、それはアリストテレスが付帯性・重要でないとした個的なものをこそ人間の中核に置くもので、近代の「個の尊厳」の芽だったことが語られます。それが現代で自意識の孤立を生みもするのですが、その苦しみもこの「語りがたいもの」に名を与え固定した人々のおかげと思うとその「恵みと呪い」に胸が詰まるようでした。2023/02/21
松本直哉
32
個性的な友人アンナについての回想に始まり、めくるめく濃密な神学的議論を経て、最後に再び亡きアンナへの呼びかけで終る構成が、〈個〉の誕生という主題にふさわしい。4~6世紀のアリウス派やネストリウス派などとの論争、ギリシャ語圏のビザンツとラテン語圏のローマとのせめぎあい、ギリシャの静的普遍とヘブライの動的な関係性の対立を通じて、いかにして個の概念が成り立ったか。概念やカテゴリーではすくいきれない、今ここにいる生身の裸の隣人のかけがえのなさを、いかにして哲学の言葉にしていくか。温かい血のかよっている哲学書だった2023/02/23
Ex libris 毒餃子
14
公会議を経てキリスト教教義が確定していく中で「個」概念が確立していく過程を綴った本。三位一体の教義から逆説的に「個」概念が確立していくダイナミクス!2023/06/03
ぷほは
9
「主体の代替(不)可能性を持つ近代的個人」などと安易に表現する社会学者の思考様式を根源的に粉砕してくれる。坂部恵『ヨーロッパ精神史入門』を思い出しながら読んでいると、巻末解説で彼の名前が登場した。原著刊行1996年という冷戦崩壊間もない時代の熱気を刻印すると共に、バフチンやレヴィナスに響きわたる「東方」の奥行きを存分に味わえるため、ロシアのウクライナ侵攻真っ只中の正に今、現代文庫に入る必然性も感じられた。ポップカルチャー分析が有名性やキャラクターの身体性について余りにも浅い蓄積しかないことを思い知った。2023/01/20
青柳
8
古代末期から中世初期のギリシャ教父らの激しい神学論争がいかにして、人間の<個>を確立するに至ったかを解説する本でした。正直、今の自分の力量で読めるような本ではありませんでした。しかし、ギリシャ哲学やキリスト教を多少はかじっていたので、部分的に理解しながら本書と格闘し、なんとか読了に至りました。ギリシャ教父の教理問答、東方教会、公会議、プロチノスらの新プラトン主義、三位一体、ペルソナ、キリスト教異端派の知識があれば、本書は理解出来ると思われますが、まずはそれらの前提知識を学ぶのに苦労すると思われました。2024/04/12