内容説明
一人の歴史上の人物であったイエスは、彼自身の「今」をどう理解し経験していたのか。また、そこから再生されたイエスの生涯は、現代の私たちに何を問いかけているのだろうか。はじまりの回心体験を核として編みあげられた表象とイメージのネットワークにせまり、復活信仰から生誕へと遡るキリスト教の「標準文法」とは逆向きにイエス物語を読みなおす。現代に生きるイエス像をヴィヴィッドに描く、画期的イエス論。
目次
第1章 これまでの研究
第2章 時代と先駆け
第3章 イエスの覚醒体験と「神の国」―イメージ・ネットワークの初発
第4章 イエスの発言―イメージ・ネットワークを編む
第5章 イエスの生活と行動―イメージ・ネットワークを生きる
第6章 最後の日々―イメージ・ネットワーク高揚と破裂
第7章 復活信仰と原始キリスト教の成立―イメージ・ネットワークの組み替え
第8章 「全時的今」を生きる―新しい非神話化を目指して
著者等紹介
大貫隆[オオヌキタカシ]
1945年生まれ。静岡県出身。東京大学大学院人文科学研究科西洋古典学専攻博士課程修了。1979年ミュンヘン大学にてDr.theol.取得。東京女子大学助教授、東京大学教授を経て、名誉教授。2010‐14年自由学園最高学部長(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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優希
75
著者にとっての歴史上のイエス像が語られていました。どのようにイエスを捉え、理解していたのかを経験ありきの上で問うことは、信仰のイエスとは逆らっていることであるのが興味深いところです。キリスト者としてのイエスの経験ではなく、現代に生きるイエス物語を読み直す。ある意味画期的な評論として読むことができました。2017/07/25
優希
33
再読です。イエスをどう理解していたかということにはやはり興味がわきますね。イエスの生涯は現代の私たちに何を問いかけているのか。キリスト者としてのイエスの経験ではなく、現代に生きるイエス像を改めて見たような気がします。2023/09/26
hide
7
イエスを題材にしたある種の歴史ミステリとして、難解ながら楽しく読んだ。共観福音書の分析から、初期キリスト教によって脚色された「救世主イエス」と庶民出身のユダヤ教改革者としての「史的イエス」をイメージネットワークに基づいて分離する前半部は豊富な研究に裏打ちされた著者の推論に圧倒される。後半部はイエスの死後に「史的イエス」を「救世主イエス」へと変質させていった原始教団の思想的発明、その背後にあった救済への切実さなどが語られて大変興味深かった。2022/04/30
belier
3
福音書の記載から史的イエスとそのオリジナルメッセージをとり出す試みがなされている。また、イエスの死後に復活信仰と原始キリスト教がどう成立したかも考察。難解な部分もあるが知的好奇心を刺激してくれた。とくにイエスが繰り出すたとえ話の解説が秀逸で、著者が描き出すイエスは素敵に思えた。ただ著者の思い願望が分析に影響しているのかもと思わないでもなかったが。あと、様々な論者の説を紹介し、それに反駁したり同意したりするのは研究者として誠実だと思う。イエス論は別の著者の本もいくつか読むつもりなので参考になった。2023/12/23
阿部
1
面白かった。イエス本人の発言と後の原始キリスト教の加筆をより分ける作業そのものも面白いし、選り分けた上でイエスが持ち合わせた世界観(イメージネットワーク)を探る作業も。今に固執したイエスに対して、弟子らが時間的広がりのあるストーリーを編み直していくところ。断片を腑に落ちる物語として読み直していくことの切実さと暴力。2018/01/08