内容説明
ユング心理学を日本に導入した著者が、京都大学を退官するにあたって、長年の心理療法体験を振り返りまとめあげた本。心理療法は人間にとってどんな意味があるのか、という本質的な問いに挑む。心理療法の科学性、技法や諸問題、心理療法家の訓練、さらに教育や宗教、文化との関連など多岐にわたる問題について考察する。河合隼雄の心理学、約三十年の成果がここに結晶。
目次
心理療法とは何か
心理療法と現実
心理療法の科学性
心理療法と教育
心理療法と宗教
心理療法における文化・社会的要因
心理療法における技法
心理療法の初期
心理療法の諸問題
心理療法の終結
心理療法家の訓練
著者等紹介
河合隼雄[カワイハヤオ]
1928年兵庫県生まれ。京都大学理学部卒業。1962年よりユング研究所に留学、ユング派分析家の資格取得。京都大学教授、国際日本文化研究センター所長、文化庁長官を歴任。2007年7月逝去
河合俊雄[カワイトシオ]
1957年奈良県生まれ。京都大学教育学研究科博士課程修了。ユング派分析家資格取得。京都大学こころの未来研究センター教授(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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roughfractus02
7
臨床の知は、科学の知と宗教の信の間にある。本書で著者は、心理療法での治す/治るの関係を医学・教育モデル(治す)/成熟・自然(じねん)モデル(治る)に分類しつつ臨床の知の複雑さを語る。クライエントを環境や文脈から切り取って単純な因果関係に還元すれば科学の知に陥り、環境や文脈を切り取ってクライエントの世界観を否定すれば宗教の信に陥る。一方クライエントの話を聞くだけでは一時的解決しか得られない。深層心理に触れる心理療法は治す/治る関係にそのつど特異で持続的関係が要請され、診療の具体的手順や制度にも及ぶとされる。2022/12/05
らい
5
主観と離れた科学の知があまりにも強力だから因果関係で現代人は問題を解こうとするが、果たして人間の心にはどこまで適用できるのか。序説と言っても系統立てたものではなく、著者の実感のこもった一冊。周囲と関係が切れてしまった時に必要なのは、科学的対処ではなく、「神話の知」ではないかと言い、それは世界を宇宙論的に濃密な意味を持ったものとして捉えたいという根源的な欲求という。このことが一番印象に残ったかな。心の奥深くの混沌な部分を昔話や神話や伝説など一見荒唐無稽に見える物語を通して表現してきたというのも面白い。2024/05/02
柘榴(ざくろ)
2
河合隼雄の心療医療に対するスタンス、テーマ、大事にしていることがよく分かった。 興味深かったのは序盤の、雨が降らなくて人々が困り果てていた村に、ある男がやってきて、村の中のある小屋に引き篭っていたら、何日か後に雪が降ってきた、という事例である。後で村人が『どうやって振らせたのですか?』と問うても、『私は何もしていない、ただ、私自身が「道」になっただけだ。』と答えたという。 詳しくは読んで欲しいのだが、心理療法もそれと似たところがあり、治療者がクライエントを治すのではなく、クライエントが自然に良くなる↓2022/12/06
藤々桃
0
わたしにとって今読むべき最良の本だった。 心理療法を行う人間として心がけるべきこと、考え方の道筋が治療者の視点だけでなく、研究者としての視点からも事細かに書かれていて、繰り返し読みたいと思う一冊である。最終章の「闇のなかに光を見出すことこそ、多くの偉大な芸術家のしてきたこと」であるという記述は特に印象深く心に残った。 芸術家の作り出したものに触れた際、それらに勇気づけられたり、それらがヒントになる場合もある。努力の積み重ねによってこそ心理療法家の成長も生じるのだという最後の一文は強い励ましになった。2015/05/12
かずぴー
0
夢だぁ。2014/06/06