内容説明
女性への抑圧はいったい何に由来するのか。著者は主婦・家事労働に着目しつつ、階級闘争でも性解放運動でも突破しえなかった、近代資本制社会に特有の女性抑圧構造を、理論的、歴史的に明快に論じてみせた。マルクス主義フェミニズムの立場を打ち出し、研究の新たな地平を拓いた記念碑的著作。
目次
1 理論篇(マルクス主義フェミニズムの問題構制;フェミニストのマルクス主義批判;家事労働論争;家父長制の物質的基礎;再生産様式の理論;再生産の政治;家父長制と資本制の二元論)
2 分析篇(家父長制と資本制第一期;家父長制と資本制第二期;家父長制と資本制第三期;家族の再編;結び―フェミニスト・オルターナティヴを求めて)
付論 脱工業化とジェンダーの再編成―九〇年代の家父長制的資本制
著者等紹介
上野千鶴子[ウエノチズコ]
1948年、富山県に生まれる。1977年、京都大学大学院社会学博士課程修了。平安女学院短期大学、京都精華大学などを経て、東京大学教授(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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おたま
58
1990年に発行された単行本を読んだ。しかし、今でもその内容は古びてはいない。そして、凄まじい本でもある。これまでフェミニズムが問題にしてきたことを総括し、それに対して根底的な理論的根拠を与えている。とともに、マルクス主義がこれまで見落として来た欠落部分を理論的に明確化し、「資本制」とともに「家父長制」(とりあえず「男性が女性を支配することを可能にする社会的権力関係の総体」と定義する)こそが女性を支配する、物質的基盤をもったものとして見いだされる。これによって女性差別や家事労働の問題が解明されていく。2023/11/03
yumiha
38
「『個人的なことは政治的なこと』というのは上野千鶴子さんの本で学んだ」と書かれていた『台所で考えた』(若竹千佐子)に導かれるように本書へ。しか~し。前半の理論編 は、まるごとの論文で難儀した。でも、フロイトの呼ぶエディプスコンプレックスは、「単婚家族内の家父長制的な性支配のメカニズム」ということなどを教えられた。後半の分析編では、「家」の概念が確立したのが明治31年の帝国憲法であること(ほんの100年ちょっと前やん)や、出産・育児期で女性の就労が途切れることまでも近代資本制社会に絡めとられていたことなどを2025/02/14
がらくたどん
38
しばらく前から「家庭生活」とはどんな生活なのだろうとブツブツと考えている。自分が完全リタイアしたら我が家は直接的な労働力再生産の任を解かれたケアベースとなる。見事に本書の資本制的社会構造図で言うところの非「労働力資源」となった老人・病人・障碍者による私的集団なのだ。立ち位置がスッキリしたと思いきや。おそらく自分は「ケア労働」を購入する立場で家庭生活をマネジメントしていくだろう。だとすると、である。付論以下で提示されたケア労働の価格適性や従事者の選択肢の問題の渦の中に「当事者」として放り込まれてしまった。2022/02/14
Tui
32
おらおらで〜の著書若竹氏と上野氏との対談で知った。マルクス読んだことないし前半部はほぼお手上げ状態。でも後半部、すごい。家事、育児、介護など無償の労働に女性ばかりが従事している、そしてそれを暗に良しとする形で国政が行われている事実。在宅介護に関わる仕事をしている身からも、男性の不在または希薄さを以前から感じてはいたが、在宅だ在宅だと謳う今の医療政策は、有償サービス(=入院)から無償サービス(=現実ほぼ女性が担う介護)へ負担を押し付けてるだけじゃん、と思い知った。気付くの遅いよと女性からは叱られそうだが。2018/07/20
nbhd
26
最近まで、妻が育児休暇で仕事から1年間離れていたこともあり、内容は難しくてわからないところもあったけど、研究テーマについては身に沁みた、痛感した。日々、夫=労働力商品を会社に送り出し、家にいる妻は「商品化されない労働」をおこない、実家からは再生産!を求められるこの現実。マルクス大先生は、市場の外部にある家族には無頓着だったので、家族についても唯物論で分析しましょう!っていうのがマルクス主義フェミニズムだと理解した。そういえば、マルクスは資本論執筆のために家庭を犠牲にしていて、この本の内容と射影にある。2021/04/20