出版社内容情報
二〇二一年初の米国連邦議会襲撃事件。憲法修正第二条を盾に武装した人民(ミリシア)と対峙する連邦キャピトル警察・州軍(ミリシア)が繰り広げる異様な光景が意味するものは何か。人民主権理念に基づいた国づくりを支え、時に反乱の母体となったミリシアから見た、暴力文化とポピュリズムをめぐる異色のアメリカ通史。
内容説明
大統領はどちらか?二〇二一年初の連邦議会で対峙する武装した人民と警察・州軍という異様な光景を理解する鍵は憲法修正第二条を盾にする「ミリシア」である。人民主権理念に基づいた国づくりを支え、時に反乱の母体となったミリシアから見た、現代アメリカの暴力文化とポピュリズムの起源をたどる異色の通史。
目次
第1章 現代アメリカの暴力文化―2021年米国連邦議会襲撃事件の背景
第2章 人民の軍隊―合衆国憲法が定める軍のかたち
第3章 デモクラシーが変貌させたミリシアの姿
第4章 転機としての南北戦争
第5章 超大国アメリカのミリシア
おわりに―問い直される人民武装理念
著者等紹介
中野博文[ナカノヒロフミ]
1962年福岡県久留米市生まれ。1993年学習院大学大学院政治学研究科後期課程修了。博士(政治学)。広島大学総合科学部専任講師を経て、北九州市立大学外国語学部助教授。現在、同学部教授。専攻、アメリカ政治外交史(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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パトラッシュ
108
アメリカと他の国で決定的に違うのは、人民の武装する権利が憲法で認められていること。先住民との戦いや狩猟のため銃を持つのが当然だった植民地入植者がイギリスとの独立戦争を勝ち抜いた結果だが、いわば武装したポピュリズムが建国の原点となってしまい、権力の源泉たる国家による暴力の独占がない国になってしまった。州兵のみならず民兵組織ミリシアも侮り難い力を持ち、トランプ登場以後は政治との結びつきを強めて分断状態に陥った。いっそ独立戦争が10年ほど続き、全領域が焦土と化していたら強力な中央政府が不可欠と認識できたのかも。2024/03/02
skunk_c
68
副題にもあるように、本書はミリシアというアメリカの「軍事」組織の歴史だ。ミリシアは元来「政府権力に暴力をもってしても対抗する」ための民兵組織のようなもので、合衆国憲法修正第2条もそれを保障するためとのこと。つまり言ってみれば独立宣言の理念の背景にあったジョン・ロックの抵抗権を具現化したものだ。しかし元来国家権力は暴力の独占を目指し、それはヨーロッパや日本の民主的制度でも実際そうなっている。アメリカという国は人々が開拓して社会を作っていったため、ミリシアの考え方が根強いが、それは矛盾をはらんでいるのだ。2024/01/31
ネギっ子gen
61
【連邦議会襲撃事件では、暴動を扇動したのは民間人のミリシア団体で、鎮圧したのが政府のミリシア(州兵)】憲法修正第二条に、「よく規律されたミリシアは、自由な国家の安全にとって必要であるので、人民が武器を保有し携帯する権利を侵してはならない」と。「ミリシア」から見た、米国の暴力文化とポピュリズムの起源をたどった通史。<合衆国憲法で銃の保有を市民の権利として認めるアメリカには、自由を守るためなら、暴力の行使も厭わない気風が満ちている>と。そうした流れの中で、あの2021年の、米国連邦議会襲撃事件が起きたか――⇒2024/03/10
kan
24
ずっとnational guardという名前に疑問を感じていたが、やっと腹に落ちた。元は人民による民間組織軍が変遷を経て、フランスのGarde nationale国民衛兵から名をもらい州軍になった流れと、建国から現代まで続く理念を丁寧に解説し、大変勉強になった。人民が武装する権利を有し、自分の身と自由を守るために戦う発想が建国前からあるのは、開拓史に加え植民地時代から州に独自の権限があったことに照らすと理解できる。国家の成り立ちと国民のマインドセットと憲法は深く繋がるが、アメリカはそれ故の混迷にも見える。2024/04/14
MUNEKAZ
12
アメリカのB級映画とかに田舎のガンマニアでかつ陰謀論者みたいなキャラが出てくるが、その背景がなんとなく分かる一冊。本書は現在の州兵に繋がる市民による志願兵の軍隊「ミリシア」の歩みを軸に、アメリカの軍制史とも読める内容。日本では秀吉の刀狩から始まり、長い歴史の中で過去のものにしてきた「人民が武装する権利」が、かの国では今も現役バリバリで生き残っている。アメリカは建国以来250年ほどの若い国かもしれないが、同時に250年前の思想が今も息づく古い国なのである。2024/03/07